もどる
第41回  工房の 科学する心

輝豸雄達の学校に、初めて顕微鏡がやってきたのは、
黄玉色の風が心地よく感じられる季節になった頃だった。

それまでの理科室にあった物は、
ビーカーが少しと芯の短くなったアルコールランプ、
上皿天秤に、分銅。それに試験管が数本 だけで、
実際それは、理科室と云える様な代物ではなかったのだ。

それが、今日からは違う。
立派な「科学」する「理科室」になるのだ。
みんな、ワクワクしていた。


     

「それでは、みんな順々に顕微鏡を使って見ましょう」
先生の声も、いつもとは違って、弾んでいる様だ。

「最初は、自分の細胞を見て見ましょう」、先生のその一言が、輝豸雄たちを一層興奮させた。
「自分のっ!」
「さ、さっ」
「細胞っ!」

耳掻きを使って、口の内側を引掻いた。
ちょっと白っぽい液体をガラス板に塗りつける。
”この中に、自分の細胞がある。それを見る事が出来る”
不思議な気持ちだった。

反射鏡をゆっくり回転させる。
少しずつ、目の前が明るくなって来た。

眩しい光の向う側に、無数の輝豸雄の細胞があった。
それは、紛れも無く、輝豸雄の細胞だった。

  科学って、素晴らしい。

順々に顕微鏡を覗き込みながら、クラス全員が、そう、信じていた。

                                                   第42回に続く