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第111回  工房の 故郷からの手紙
「はいっ、輝豸雄。」
「何ですか、くま旦那さん?」
くま旦那の手には、一通の手紙があった。
  ” 熊野輝豸雄さま ”  宛名にはそうあった。
「え〜っと、どれどれ、差出人は、っと。」
輝豸雄は、その少し汚れた封筒を裏がえした。
そこには、思いがけない人の名前があった。
3日後、輝豸雄は故郷の島にいた。
”賛吾小学校か、、、、。
 もう二度と来る事はないと思っていたのに、、、、。”
輝豸雄の元に届いた手紙の差出人は、
輝豸雄の通っていた小学校の校長先生だった。
そこには、
    3年前に賛吾小は廃校になっていたこと
    その後は公民館として使っていたが、解体工事が始まったこと
    そして、校舎の奥から、それが見つかったこと、が
    校長先生らしい文体で書いてあった。
別に、賛吾小学校に想い入れがあるわけではない。
決していい思い出があるわけでもない。
しかし、、、
” それ ” が見つかったという手紙は、輝豸雄の心を掴んで離さなかった。
学校の入り口の工事事務所に一言挨拶して、
輝豸雄は、解体中の校舎に入っていった。
初夏だというのに、校舎の中は涼しく、
時折、何処からか吹いてくる風が心地よかった。
所々割れたガラス窓から、陽射しが射している。
足元の瓦礫に気を付けながら、輝豸雄は奥へ奥へと進んでいった。
そして、
そこに、  ” それ ”  は あった。
  
「あぁ、、、。」
輝豸雄は思わず声を漏らした。
誰もいない校舎に輝豸雄の声が溶けて行く。
 ” やられてくん 1号 ”   それはかつて そう呼ばれていた。
輝豸雄たちがはじめて作ったロボットだ。
 辛かった、
 苦しかった、
 哀しかった、
   けれど、
 楽しかった。
ただ、サッカーボールを蹴って、ゴールに入れるだけしか出来ないロボット。
今の輝豸雄にしてみれば、玩具とも言えないレベルのロボットなのに、、、、。
そっと、それを触ってみた。
うっすらとかかった埃の下に、みんなで書いた落書きがあった。
  ” いつか来る ロボットの時代への第一歩 ” 
「いつか来る ロボットの時代、、、、、か。」
輝豸雄は目を瞑った。
そして、ひとつ大きく深呼吸をした。
「来てよかった。 本当に来てよかった。」
輝豸雄は、そう思った。
                                                   第112回に続く