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第100回  工房の 新車問題

輝豸雄達が口々に不満をぶちまけていた。

「だいたい、くま旦那だけが新しい車を買うなんて、
 お天道様が許しても、僕らは納得できません。」
「そうだっ!そうだっ!」
「だいたい、新車なんて本当にくま旦那に必要なんですか?」
「うんうん。」
「会社と、工房と、秋葉原と、新宿と、池袋しか往復していていないのに、
 車なんて要らないじゃん。」
「そ〜そ〜。」
「くま旦那だけあ〜んなに格好いい車に乗るなんて絶対許せないしぃ〜。」
「んだ、んだ。」
「僕だって、あんな格好いい車があったら、一生懸命働くのに。」

輝豸雄達の話を黙って聞いていたくま旦那が、徐に話し始めた。
 「諸君の言いたい事は解かりました。
  でも、君たちにこそ、車なんて必要ないでしょ。
  工房でゴロゴロしてるだけなんだし。」



輝豸雄が怒って反論する。
「な、なに言っているんですか、くま旦那さん!
 僕たちはそんな事を言っているんじゃありませんっ。」
「そ〜だ、そ〜だ。」
「僕達だって、バビューンとして、ドドーンとした
 格好いい車があったら、もっと、もっといい仕事が出来るって言っているんです。」
「そうそう、バシッとした格好いい車があったら一生懸命働くのに。」
「くのに〜。」
「そうですよ、バリバリっとした格好いい車があったら、
 お小遣いなんて要らないのに。」
「そ〜だ〜、俺なんて毎日廊下の拭き掃除もしちゃうもんね。」
「風呂掃除もしちゃうもんね。」
「もんね〜。」



「よ〜し、解かった。
 言いたい事はそれだけかっ!」
くま旦那の言葉は激しかった。
「君たち、今言ったことをよ〜く覚えていなさいよ〜。」
くま旦那は、それだけ言い残すと、さっさと部屋を出て行ってしまった。
輝豸雄たちは少し言い過ぎたかなとも思ったが、
くま旦那には新車があるので仕方が無いんじゃないか、とも、思っていた。



それから数日後、朝早く輝豸雄達はくま旦那に呼び出された。
「いろいろ考えたんだが、お前たちの言う事も尤もだと思うので、、、、、」
「へっ、、、。」
「く、くま旦、、、。」
「あれぇ、、、、。」
「こ、これは、、、、。」
「これが鍵だ。
 くれぐれも事故にだけは気を付けてな。」
「く、くま旦那さ〜ん、
 あ、ありがとうございます。」

  

輝豸雄達の目の前には、
   バビューンとして、
       ドドーンとして、
           バシッとして、
               バリバリっとした 格好いい新車があった。

「わ〜い、すご〜い、格好いいっ!」
「5倍以上のエネルギーゲインがあるぞっ!」
「お、俺も乗る〜。」
「のるっ、のるっ!」

「え〜と、
 君達〜、この間の約束は覚えているかなぁ?
 お小遣い無、廊下とお風呂の掃除もちゃんとやるんだぞ〜
 いいか〜、約束だぞ〜。」

誰もくま旦那の言う事など聴いていなかった。

                                                   第101回に続く