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第98回  工房の プラネテス   その4 〜終わりはいつも   そして明日へ〜 

あの墜落事故から、2週間がたった。




結局、輝豸雄達が必死で直した宇宙船は、間に合わなかった。
テレビやラジオが今回の事故の原因究明をしきりに求めていたが、
輝豸雄達には興味が無かった。



ただ、ただ、無力感だけが、教室中に漂っていた。



輝豸雄は、時折、空を見上げて考える。
この世に生きとし生けるモノの全ての運命について。
自分について、博士について、友達について、コーチについて、考えたり考えなかったりした。





或る日の事。
ホームルームの時間が始まっていたが、教室に先生はやって来なかった。
5分、いや、10分くらいしただろうか。
先生が教室に入ってきた。
一人ではなかった。
先生の連れてきた、新しい友達に、みんなの視線が集中した。
先生は、何となく気まずい様な顔をしていた。

「は〜い、みんな、静かにして下さ〜い。
 というわけで、今日からまた、みんなと一緒にお勉強する事になった
 麝弐猪くんです。
 お父さんのお仕事の都合で転校してきました。
 はい、麝弐猪くん、ご挨拶してください。」

  

「え〜っと、、、、。
 急に帰ってきてしまったので、ぼくもビックリしています。
 みんなと一緒にまた勉強できて嬉しいです。」
 「は〜い、みんな、仲良くしてあげてね〜。」

 「せんせい! 一体どういうことですか?」
 「麝弐猪く〜ん!」
 「死んだふり、死んだふり」
 「きゃ〜!」
 「し、死んだんじゃ、、、。」
 「なんまんだぶ、なんまんだぶ」
 「悪霊退散! 麝弐猪の魂よ、成仏したまえ!」
 「う〜ん。」




  結局のところ、墜落したのは、気象実験衛星の、実験ユニットだけだったらしい。
  乗組員はみな、居住ユニットにいて無事だったのだが、
  通信機の故障で、何処にも連絡出来なかったらしい。
  ただ、何者かによって、実験が妨害された事には変わりなく、
  実験に携わっていたメンバーの安全を考えて、全員死亡したことになっているとのことだった。
  事件の黒幕が誰だ、とか、大国同士のパワーバランスとか、いろいろ意見を云いたい事は沢山あったのだが
  結局の処、本当の真実は誰にも解かっていない様だった。
  ただ、結局、麝弐猪の両親は地上勤務にもどり、
  麝弐猪もまた、この教室にもどってきた事だけは、紛れもない真実だった。




「なぁ、麝弐猪〜。」
「なに? 輝豸雄くん。」
「誰も聞かないから、俺が代表して聞くんだけど、」
「なになに、何でも答えるよっ!」
「お前、、、、。どうして蒼いの?」
「う〜ん、これ?
 人工衛星が故障してね、
 僕、怖くて怖くてぶるぶる震えていたの。
 そしたら、だんだん体まで蒼くなっちゃって、、、、。それから直らないのよ、この色。」


  ” お前は ドラえもん かよっ! ” そういってつっこみたかった輝豸雄だったが、
  麝弐猪の顔を見ていたら、そんな気も何処かに失せてしまった。


麝弐猪はいま、此処にいる。 ” それでいい ” と、輝豸雄は思った。

                                                   第99回に続く