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第30回  工房の 引退試合

大きな試合の前には、何ともいえない緊張感が漂う。
試合に挑む者、見守る者、そして其れ等を裁くもの。
皆、其々、立場は違えど、願いは一つ、
  良い試合がしたい!

その試合を最後に引退する事を決心していた輝豸雄にとって、
その想いは、尚更であった。

輝豸雄が最後の試合として選んだのは、
その夜の”メーンイベント” タイガーマスク VS ウルサス・アポロン だった。

試合は、開始当初から、技の応酬だった。
タイガーマスクも、ウルサス・アポロンも、
己の持てる力を出し切って闘っていた。

輝豸雄も、一生懸命、その試合を仕切っていた。

      

試合開始から18分、
遂にその時がやって来た。
タイガーの大技が決まった。

ワンッ!ツッゥゥウゥ!、、スィリィイイィ! 

輝豸雄の最後のカウントが、会場に響き渡る。
勝利のゴングが鳴り、歓声がタイガーマスクを包んでいった。

流れる汗を拭きながら、輝豸雄は考えていた。
自分のレスラー生命を奪ったタイガーマスクが世界一になったこの試合が、
自分の引退試合になるなんて、
”なんて、人生は不思議で、楽しいのだろう”、と。

「あの頃は、俺も若かったなぁ、、、。」  そう思わずにはいられない輝豸雄だった。

                                                   第31回に続く