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第84回  工房の ギザギザハートの子守唄

「あのさ〜」
「何だよ?」
「相談したいことがあるんだ。」


   何時になく、彼の瞳は真剣だった。


「どうも、反抗期に入ったみたいなんだ。」

「?」

「部屋にも入れてくれなくなったし、、、。
 第一、危っかしくて入れやしないんだよ。」

「!」

「あんなに優しい子だったのに、、、、、。」
「一体どうしたって云うんだよ!」
「もう、俺、如何したらいいか判んなくてさ〜、、、。」

   こころなしか、瞳が潤んでいるようにも見える。
   どんな時だって泣いた事の無い彼が。

輝豸雄は、口を開いた。
「判った、判ったから。
 一度逢わせてくれよ。何か役に立てるかもしれないしさ。」
「輝豸雄〜。ありがとうぅ〜。お前だけが頼りだよぉ〜。」





「し、、しかし、、、。」 、久しぶりに見た ”彼” は、輝豸雄には、全くの別人に思えた。

   

「最近コイツ、なんだかナイフみたいに尖ってさ、
 触るもの皆、傷つけるんだよぉ〜。
 御飯もあんまり食べないし、 輝豸雄、どうしよう?」

 

   部屋から出てきた ”彼” は、
   確かに思春期特有の蒼い感情に囚われている様な気がした。
   しかし、 ”彼” の瞳は、真っ直ぐに前を見ているように、輝豸雄には思えてならなかった。
   きっと、誰もが通るその道を、”彼”も精一杯進んでいるのだろう。
   これなら、「大丈夫」 と、輝豸雄は思った。
   しかし、いま、この時期は、何を言ってもダメだろう、とも 輝豸雄は思った。
   輝豸雄自身もまた、そうだった様に。


「御飯は、しっかり食べないとダメだぞ。
 それから、人様に迷惑をかけちゃダメだぞ。
 あとは、、、、。」

    
    輝豸雄は、”彼”の眼を見た。 ”彼”もまた、輝豸雄を見ていた。


「あとは、そのままでいい。自分の想うとおりに生きてみなさい。」


    あの時、自分が一番欲しかった ”言葉” を、輝豸雄は自然と口にしていた。
    今は判らなくてもいい。
    何時か ”彼” の心に届く事を信じて。

                                                   第85回に続く