もどる
第74回  工房の 謡声のある風景


     

その人は、誰もいない街角で、独り謡っていた。
その背に大きな翼を広げて、謡っていた。
高く澄んだ聲は何処までも届くような気がした。





    「・・・・・・。」
    「す、すごいね、、、。」
    「こんな綺麗な声、初めて聴いたよ。」
    「うん、お腹が空いたのも忘れちゃうぐらい凄いね。」
    「うん、そうだね。」


  「でも、、、、。」
  声には出さなかったが、輝豸雄は独り不思議に想っていた。
  ”あの、おね〜さんはど〜してこんな処で《天城越え》を謡っているんだろう”、、、と。

                                                   第75回に続く