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第24回  工房の 神の一手

その時、輝豸雄は、今まで経験した事の無いプレッシャーと斗っていた。

工房の囲碁部の先鋒として、
緋沙詞先輩のピンチヒッターとして、
この大会に参加していた輝豸雄だった。

緋沙詞先輩が交通事故に遭って以来、コーチの指導を受けて一生懸命練習してきた。
その甲斐があって、1回戦、2回戦は無事に突破できた。

しかし、この3回戦の相手は違った。
まだあどけなさの残る少女なのに、得体の知れないプレッシャーを感じるのだ。

  

今までに対戦したどの相手とも違う碁を打つ少女だった。
新しい様で古典的、古典的な様で斬新な碁の流れは、
対戦相手の輝豸雄だけで無く、周りの観客をも惹きこんでいった。


「ありません。」  輝豸雄の完敗だった。
輝豸雄はその少女に聞いてみた。
「何時から碁を?」
微笑みながら少女は云った。
「まだ、始めたばかりなんですよ。輝豸雄さんはお強いですね。」
「わたし、碁の神様に見守られているんですよ、きっと。  実力で勝ったんじゃありません。」
そう云うと、少女は席を立っていった。

「神様が相手か、、、、。」  輝豸雄は独り呟いた。

どうやら、他の2人も負けたようだ。

輝豸雄達の暑い夏が終わった。

                                                   第25回に続く