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第23回  工房の 床屋さん

くま旦那と同じく、輝豸雄も床屋さんが嫌いである。
いや、
正確に云えば、「嫌い」ではない、「苦手」であった。

  
輝豸雄の注文は何時も、

「出来るだけ短く、
 耳はしっかりと出して、
 でも、刈上げはしないで」 である。
勿論整髪剤は、変な匂いがするので嫌いである。

最近は、お店のほうで
輝豸雄の好みを覚えてくれて、
何も云わなくても、
綺麗に仕上げてくれる様になったので、
輝豸雄も随分と楽になった。

それにしても、
どうしてこんなに床屋という職業に従事する人達は
お喋りなんだろうか?と 輝豸雄は思う。

何処か痒いところは御座いませんか?

「まただ、、、。」 輝豸雄は思う。
こんな時、他の人はどう答えているのだろうか?

正直に答えて良いのだろうか? 悩む。
今一番痒いのは、頭ではない。
○○○なんだが、
とても人前で云える様な場所ではない。

「別に、大丈夫です。」
いつもの様にそう答えるのが精一杯の輝豸雄だった。

時々、輝豸雄は、恥も外聞も投げ捨てて、
己の気持ちに正直に答えても良いのではないか?と思う事がある。

まぁ、思うだけで、実際に口に出す勇気など微塵も持っていない輝豸雄であった。

                                                   第24回に続く