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第64回  工房の 子熊3人北海道ツアー  その4
             「北の国から 2003 ”兄弟愛”」

輝豸雄の眼下には、広大な海があった。
海は何処までも蒼く、空もまた何処までも蒼かった。

   そして、空と海との間には、、、、、、  何も無かった。

蒼い海の上を、真っ赤なガリンコ号が何事も無かったかのように泳いでいた。

  「あっ、てでおく〜ん」
  「おいっ、輝豸雄っ!何処行くんだよぉ」
  「てでおく〜ん」
  「輝豸雄っ!そっちはっ!」

流氷を見る事が出来なかった哀しみに、
輝豸雄は思わず駆け出していた。
今は、何も観たくなかった。
「せっかく、せっかくオホーツクまでやって来たのに、、、。」
「こ、氷が無いなんて、、、。」
何処でもいい、此処から逃げ出したかった。





  どれだけ走っただろう。
  海は何処にも見えなくなっていた。
  輝豸雄は、我に帰った。
  「此処は、何処?だろう。」
  鬱蒼とした森の中に輝豸雄は立っていた。
  輝豸雄は急に心細くなってきた。  ここは、何処なんだろう?


「お〜ぃ」
「お〜い、てでおく〜ん 待ってよぉ」
「輝豸雄っ!」
「みっ、みんなっ!来てくれたんだね」
走って追いかけて来てくれたのだろう、2人の息は荒かった。
「ねえ、ねえ、ここどこ?」
「そうだよ、輝豸雄、またお前一人楽しもうと思ってたんだろう?」
「どこに、美味しい物があるの?どこどこどこぉ?」
「えっ、そのっ」
「何だよぉ、何処だよぉ」
「いや、その、、、、此処、、、何処?だろう?ハテナ?」
「はぁ?」
「えぇ〜」


その時だった。
辺りの木々から一斉に小鳥たちが飛び立った。
遠くで犬の鳴声が聞こえたような気がした。

  ガサガサ、ガサガサッ!

 「ん!」
   「ぇ!」
     「あ!」

   「熊だ〜!」  バタッ(死んだふり)
     「熊だ〜!」  パタッ(死んだふり)
       「アニキィ〜!、久しぶりだなぁ」

   

「何時こっちに来てたんだ?」
「ついさっきだよ、今朝札幌から来たんだ。」
「そうか、来るなら来るで、連絡ぐらいしろよ。」
「ごめんね、急にこっちに来る事になってさぁ。アニキも元気だった?」
「まあな。ところで、そこで死んだふりをしている二人は、お前の友達か?」
「うん、そうさ、一緒に働いているんだ。」
「そうか、まぁ、元気そうで良かったよ。」
「アニキもね。」


明るく弾む2人の会話を聞きながら、起上がる機会を完全に失った輝豸雄だった。

                                                   第65回に続く