最近行った映画(2002年)

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「メメント」

妻をレイプされて殺され、 精神的衝撃でそれ以降の新しい記憶を10分しか保つことができなく なった主人公が、 自分の身体に入れ墨をして重要な情報を 書き留めるという手段まで用いて 自分の記憶障害と闘いながら復讐を遂げようとするというのが、 この映画の大ざっぱなストーリーである。

しかしこの映画をほかのどの映画とも違う特異的なものにしているのは、 映画という表現形式の暗黙の前提に真っ向から挑戦する、 ラストであるべきシーンをいきなり最初に持ってきて そこから過去へたどっていくというその構成である (一番最初の、 ポラロイド写真を手で振って乾かすたびに印影が消えていくように見える 逆回しのシーンは、 過去をたどっていくそのような構成と、記憶が保てない主人公の障害を 同時に見事に象徴していたように思う)。 実際の構成はカラーとモノクロのシーンが交互に繰り返され、 カラーのシーンではラストから断片的に過去に進み、 モノクロのシーンはさらに古い過去を象徴する挿話から未来に進んで、 最後にカラーのシーンの逆時系列とモノクロのシーンの順時系列が 一致するという、非常に凝ったものであった。 これは見る側に極度の緊張を強いるものであり、 全く頭の休まる暇がなかった。 普通の映画なら時間が未来に進んでいくにつれて、 謎が次々に提示されていくのだが、 時間が過去に進んでいくこの映画でも、 同じように謎は次々に増えていく。 しかしこの特殊な構成と、 誰が本当のことを言っているのかわからないということから、 頭の混乱ははるかに強く増幅され、 それがさらに緊張を強いてゆくのである。

頭がいっぱいいっぱいの状態で提示されたラストは、 頭が飽和していることも忘れさせる衝撃的なものであった。 しかし、 「ならば妻を殺したのは本当は誰なのか?」という 疑問は、私の中では解決されずに残ってしまった (もちろん、疑問は他にもたくさんある)。 この映画は一度見て理解できたとはとても言えない 複雑極まりないものであったが、 「記憶を保てない人間にとって、 『自己肯定』ということがいかに難しいことか」 ということが、私の中で印象に残ったことの一つである。

(2002年1月19日観賞、執筆)


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