臨床検査技師の仕事 −医学教育を受けずに業界に入っちゃった人へ− (6)


(1999/12/19更新)


[自動化の意義]

自動化の目的
  1. 多検体を短時間で測定すること
  2. 緊急検体にすぐ対応すること
  3. 検査品質向上(マンファクターの解消)


 臨床検査の自動化は、単純作業を機械に任せ、作業の効率化・均一化を図ることができるならば、人間はもっと別の、人間の判断の必要な問題に取り組む時間が増やせるのではないか、また、まわりを見回す余裕ができれば、検査業務全体の品質向上を考えることもできるようになるのではないか、という発想である。怠け心から仕事を楽にしようとしているわけでも、レベルの低い検査技師や素人に検査させることを目指しているわけでもない。


 緊急検査については、こんな話があります。
 ICUにある検査装置のデータがおかしい、不安定だとセールスマンが工場に怒鳴りこんできました。ICUだけに、データが出ませんでしたでは済まないので、しょっちゅうサービスマンが呼びつけられているらしく、他の仕事ができない、どうしてくれるんだというのです。
 ところが、よく話を聞いてみると、その装置は保守がまったく行われていないことがわかりました。「ICUは24時間体制だし、メンテナンスの暇なんかない。しかたがないだろう」と、セールスマンは言います。
 しかし、これはセールスマンの考え違いなのです。ICUはたしかに忙しいけれど、急を要する重体の患者を扱うICUだからこそ、検査機器の管理・保守など万全の体制を整えておく必要があります。メンテナンスの必要な機器なら、その余裕をなんとかしてひねり出さなければならないのです。
 思うに、このICUの機器管理者は、正しい保守の情報を与えられていないのではないでしょうか。なにかあったら飛んできますから、とセールスマンに請け負われて、本当にメンテナンスのいらない機器だと信じ込んでいるのかもしれません。管理者の自覚不足、勉強不足といえばそれまでですが、ICUだからしかたがないと本末転倒の考え方をするセールスマン自身も勉強不足です。
 保守管理をやらざるを得ないからこそできるだけ簡単に扱える機器を選ぶのです。また、真にメンテナンスフリーの機器が存在したとしても、壊れていないかどうかの確認は最低限必要なのです。


[用語解説]
  1. 検体検査は、分析化学実験法の発展したもので、特徴を挙げるとすれば、検体がすべて人体由来であるということである。したがって、検査の組み立て、分析法の選択などは本来自分で行うものである。当然、試薬も自家調製する
  2. 「試薬キット」は、測定に必要な試薬、消耗品を必要なだけ、しかも常に一定品質のものをセットにした商品で、試薬、操作手順、反応時間など分析法全体の標準化をたやすくなる
  3. 臨床検査装置は、検査に適した改良を加えた分析機器に過ぎない。つまり、単なる道具である
  4. 自動分析は、手順の大部分またはすべてを機械にまかせる方法で、生化学的検査のようにほとんどの項目で同じ原理・手順をとるものに対しては大きな威力を発揮する。自動機はその機械をいう。ただし、いまのところデータの判定まではしてくれない

[検査におけるマンファクター]

自動化によって精度向上が望めるもの(機械の方が優れている点)
  • 目盛りの読み取り感覚
  • 時間の感覚
  • 温度の感覚
  • 反応を見極める感覚
  • 見えるか見えないかの感覚
  • 色の感覚
  • 集中力
人の方が優れているもの(現時点)
  • 違いを見分ける感覚
     ※ 画像診断のように数値化しにくい評価基準を持つ場合、なにが「違いであるか」を機械に教え込むのは非常に手間がかかる。また、ハードウェアの制限もある
  • コミュニケーション能力
  • 判断力

[検査流れと検査技師の仕事(チェック項目)]

 医師より検査依頼 
検体検査 生理学的検査
検体採取
患者間違い
採取時間
食事・姿勢・運動
採取手技
患者名書き間違い
採取量
運搬
破損、汚損、取りこぼし
採取直後の検体処理(抗凝固剤、酸化防止剤など)
運搬中の保存温度
保存
温度、時間、状態  
検査
試薬管理(純度・期限・保存)
検体の状態(凝固の有無など)
検体の並べ間違い
検体番号の付け間違い
患者氏名の読み間違い
機器(破損・故障・安定状態)
標準物質(検量線)
分析技術(手技・手順)
データの読み間違い
患者の状態
患者間違い
採取時間
食事・姿勢・運動
採取の困難さ
患者名書き間違い
安全に対する配慮(アースなど)
患者に対する配慮
事務的処理
患者名間違い
計算間違い
転記ミス
データ紛失
依頼元へ返却
報告書の紛失
確実に依頼元へ返却したか


まとめ



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