13.不世出の物理霊媒ミラベリ


「調査の結果、ミラベリが人を騙した証拠、また彼が人を騙さなければならない状況は一切なかったことが判明した」
ガイ・プレイフェア


ヴィ:えー、教授は本日お休みです。きっと自分が今までやってきた物理を根本から考え直しているところでしょう。何せ、意識が物質に作用することができるという現実を見てしまったのですから。

 今日はブラジルの偉大な霊媒、おそらく人類の歴史においてもっとも力のあった物理霊媒カルロス・ミラベリ(Carmine Carlos Mirabelli)(1889-1950)について話します。

 1911年、23才のミラベリは靴作り見習いの職を首になりました。その理由は、彼の周囲で靴の箱がやたらに宙を飛ぶというものです。多数の科学者たちが世界各地から彼を訪れ、今までに反証されたことの無い、反論の試みすらなかった物理心霊現象を目撃しました。1927年にブラジルで出版された「霊媒ミラベリ」には、真昼間にたくさんの、ブラジルを代表する科学者、社会グループを含む最高60人の証人の前で起きたさまざまな現象について、74ページに及ぶ記述が載せられています。この本に証人として名が挙げられている中には、ブラジルの大統領、国務長官、2人の医学博士、72人の医者、12人のエンジニア、36人の弁護士、公職にある89人の人々、25人の軍人、52人の銀行家、128人の商人、22人の歯科医、および修道会のメンバーが含まれます。これほど多くの卓越した信用できる人々による証言を、容易に見逃すわけにはいきません。そのため、大統領を中心とした20人の委員会が組まれ、証人たちにインタヴューをして、ミラベリの力を科学的に研究するための方法を決定することになりました。1927年に新しく心霊調査アカデミー(Academia de Estudos Psychicos)が設立されると、ヨーロッパの霊媒たちが調査されたのと同じ方法で、一連の管理された実験が始まりました。

 調査は3つのグループに分かれて行なわれました。一番目のグループは口述の霊媒現象について調べ、189回の肯定的な(肯定的な結果を産み出した)交霊会を取り扱いました。二番目のグループが調査したのは自動筆記で、肯定的交霊会は85回、否定的(何の結果も生み出さなかった)交霊会は8回という結果になっています。三番目は物理心霊現象を調査し、63回の肯定的交霊会、47回の否定的交霊会を経験しました。肯定的交霊会のうち40回は日光の下で、23回は明るい室内光の中で行なわれ、霊媒は椅子に縛り上げられ、部屋の中は実験の前と後に十分にチェックされています。

 ミラベリは基本的な教育しか受けておらず、母国語しか話しません。しかしトランス状態になると26種類の言語 ―ドイツ語、フランス語、オランダ語、4種類のイタリア方言、チェコ語、アラブ語、日本語、スペイン語、ロシア語、トルコ語、ヘブライ語、アルバニア語、いくつかのアフリカ方言、ラテン語、中国語、近代ギリシャ語、ポーランド語、シリオエジプト語、古代ギリシャ語 ― これらの言語が彼の口を借りた存在から流れ出ました。トランス状態の彼は、通常状態の彼の理解力をはるかに超える難しい話題を、高次の霊の言葉として話します。その中には薬学、法理学、社会学、政治経済学、政治学、神学、心理学、歴史、自然科学、天文学、哲学、論理学、音楽、文学、スピリティズム、オカルティズムが含まれます。

 トランス状態の彼は自動筆記の才能も示し、28の異なる言語を用い、通常では考えられない速度でペンを運びました。ポーランド語による5ページの「ポーランドの復活」は15分、チェコ語による9ページの「チェコスロバキアの独立」は20分、ヘブライ語による4ページの「名誉毀損」は12分、25ページのペルシャ語による「偉大な帝国の不安定さ」は40分、ラテン語による4ページの「有名な翻訳」は15分、日本語による5ページの「日露戦争」は12分、シリア語による15ページの「アラーとその預言者たち」は22分、中国語による8ページの「名ばかりの仏陀」は15分、シリオエジプト語による8ページの「立法の根本原理」は15分でそれぞれ書き下ろされ、32分で書かれた3ページに渡る象形文字はいまだに解読されていません。


 ミラベリは物理霊媒としても突出していました;

 ある朝、調査委員会の研究室で明るい日光の中、科学博士の称号を持つ10人を含むたくさんの人々の前で行なわれた交霊会において;


 別な機会に、サントスで午後3時半に行なわれた交霊会で起きた事柄の真実性について、総勢60人の証人たちが報告書にサインを残しています。このときの交霊会において;


 別の管理された交霊会においてミラベリ自身が非物質化し、他の部屋で発見されたときがあります。このときも、彼を縛り上げた紐の結び目、そして部屋の扉と窓に貼られた封印は完全なままでした。

O:ヴィクター、私がいないと思ってかなりいいかげんなことを言ってるな。

ヴィ:あれ! 教授、いつの間にいらしたんです?

O:さっきから影で聞いていたが、よくそんな世迷いごとが言えたものだ。

ヴィ:私は単に事実を述べていただけです。

O:事実!? あれが? あんなものが事実だと言うなら私は東京タワーの上から飛び降りるよ。

ヴィ:教授、ブラジルの大統領までからんでいるんですよ。それに当時有名だった多数の科学者も関わっています。

O:そんなのは捏造だな。君はブラジルの公文書まで調べたのかね。

ヴィ:いえ、それはしていません。

O:ほらな。本にそう書いてあったからといって本当とは限らんだろ。

ヴィ:しかし、公の本に大統領の署名が捏造されていたら問題になると思うのですが。しかもその署名は、確かに超常現象が起きたことを認める署名なのですから。

O:それなら、大統領がその、起きてもいない事柄を起きたと宣誓する署名をすることは、当時のブラジル国家にとって何か意味があったのかもしれん。

ヴィ:はあー。説得力がないですね。

O:もしくはミラベリが希代のマジシャンだった可能性も無視できないだろう。

ヴィ:マジシャンという人たちは、トリックでもって何カ国後でも自由自在に話したり書いたりできるのでしょうか。しかも象形文字まで書くなんて、何て多才なマジシャンなのでしょう。

O:そこらへんはトリックだとは言っていない。彼がたくさんの語学に通じていたのは私も認めるよ。

ヴィ:でも、ミラベリは基本的な教育しか受けておらず、母国語しか話さないのですが。

O:誰がそれを調べたの。心理学者が嘘発見器と共に確認したのかね。百歩譲って、もしそうだったとしても、たくさんの言語を話し出すのは脳の未知の可能性として考えるべきでしょ。

ヴィ:じゃあ、サンパウロのダ・ルス駅で何人かの人々と一緒にいたミラベリが、一行の前から突然姿を消し、およそ15分後に、90キロ離れたサンヴィンセントにいることが確認された事実はどう考えます。

O:うわさに尾ひれがついただけでしょ。もしくは、相当すごいマジシャンだったようだから、替え玉を雇っていたこともあり得るな。

ヴィ:それでは、れっきとした調査委員会の前で、亡き高名な病院医ベゼラ・デ・メネセス博士が物質化し、生前の彼を知る二人の医者が15分かけてその体を調べ上げた結果、解剖学的に見て正常な人間の体であることが宣言された件はどうです?

O:この話ではその病院医が確かに死んだのかどうかが示されていない。それを調査した上での話でなければ、これ以上の議論は無意味だな。

ヴィ:最終的に博士が宙に浮かび、足からふくらはぎ、もも、腹部、胸、そしてついには頭が、徐々に非物質化していったという記述に対して、60人の人間が真実だと署名している事実を無視するのですか?

O:いかれた人間は何人集まろうと信用できんよ。きっと阿片でもやってたんだろう。

ヴィ:教授の言っているのは、反対のための反対です。どうしてもっと論理的に考えられないのです。せっかく意識が物に影響するのがわかったのに。

O:ああ、確かにあの針は動いたよ。でもそれとこれとは違う。例えば、ヴィクターとか私が100mを走ったら、かなりがんばっても20秒以上かかるだろう。その一方で100mを9秒台で走る人たちがいる。これは事実だ。しかし、しかしだ、君は100mを0.1秒で走る人がいるといったら信じるか?

ヴィ:しかるべき証拠があれば信じるかもしれません。

O:その思考回路が私には信じられないんだよな。だいたい100mを0.1秒で走ったりしたら、筋肉はずたずたになってしまう。音速の約三倍だから、体にかかる衝撃波だってものすごいだろう。骨もかなり折れてしまうだろうな。鼓膜も破れて悲惨な状態だよ。

ヴィ:教授の言い方は、娘は殺人犯ではないと訴える父親の言い方に似ています;

「その男は何で死んだんです。えっ、引き裂かれて死んだ? しかも素手でつかまれたようだ? そりゃ、うちの娘とは関係のない出来事ですよ。だいたい女の力でそんなことできるわけないでしょ。しかも娘ときたら、庭のあの石すら持ち上げられないんですよ。今回殺されたのが娘の恋人だったとか、最近言い争いばかりしていたとか、そんなことは偶然です。娘は無実ですよ。」


 しかし我々弁護士としては、殺された男が死ぬ間際にそのお嬢さんと一緒にいた目撃証言があり、その男の体に彼女の指紋が残っている限り、その娘を簡単に無罪放免にするわけにはいかないのです。どんな不可能に見える事柄でも、その可能性を証拠と共に吟味していくのが弁護士の仕事です。

O:法廷で提出される証拠だけを元にして判決を下し、それが間違っていた例はたくさんあると思うんだけどな。

ヴィ:それはそうですが、それ以上に正しかった例がたくさんあるのを忘れないでください。すべては、どれくらい正しい判決をくだした中で、どれくらいが間違っていたのかという観点から判断されるべきです。しかるに、いいですか、死後の世界に関する訴えは、通常は裁判にも顔を出さないのです。教授のような頑なな心に阻まれて、豊富な証拠があるにも関わらず、起訴にすら到らないのです。今ここで、まっとうな、偏見のない裁判をしてみようではありませんか。

O:ああ、いいよ。じゃあ君は、死後の世界は存在するので私は無実だという被告側。私は君を、死後の世界などというまやかしで世間を騒がした罪で告訴した検事側としようか。陪審員はどうしよう。

ヴィ:それは読者のみなさんでしょう!

弁護士の論じる死後の世界


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