第3回 速弾きについて




 楽器を演奏する人なら誰でも「速い曲を弾けるようになりたい」と望むものです。
 世の中には本当に速い人がいて、天性の運動神経を感じさせる人もいれば、力技でもっていく感じの人もいますが、どちらも素晴らしい才能です。「速く弾ける」ということは弾く側にとっても聴く側にとっても大きな魅力です。

 マンドリンのような複弦楽器は2本ずつ弦を弾くため、ギターなど単弦の楽器に比べて少々不利な気がしますが、最近はクリアで洗練されたテクニックを持った奏者が数多く輩出しており、一切そんなことは感じさせない演奏を耳にします。以前から活躍している人でも、たとえばドイツのデトレフ・テーヴェスなどは目を見張るテクニックを持っています。また最近良く知られるようになりましたが、ロシアの民族楽器ドムラ(3弦あるいは4弦の弦楽器。後者はマンドリンと同じ調弦)の奏者もすごいテクニックを持っていて、マンドリン畑にも続々進出しているのは周知のとおりです。その他、ブルーグラスのフラットマンドリン奏者には昔から速弾きの人がたくさんいます。
 ただ、一般的に「速さ」ということの中には、スピードそのものより、むしろドライブ感というか、リズミックでスリリングな演奏が求められていると思います。いくら速いテンポで演奏できても、リズムに乗っていなければつまらないものです。たとえば、ブラジルのショーロなどでは、リズムに乗って、シンコペーションを多用しつつ自在に歌いまわすバンドリンの演奏が聴かれます。彼らの鋭敏なリズム感による演奏は、必ずしも速さと関係ありませんが、スピード感にあふれた素晴らしいものです。ブルーグラスの名手の演奏も聴く者をエキサイトさせるドライブ感に満ちています。

 名手の演奏を聴くと、気が急くのが人情ですが、たとえ今すぐ弾けなくても少しずつ、きっちり仕上げていくことが重要です。経験的に言えば、才能の有無に関係なく正しい努力を続ければ、ある程度までは速く弾けるようになります。ただ、速さより大事なことはいくらでもあるので、それらを犠牲にしないように練習しましょう。
 最初は少しゆっくり目のテンポから徐々にスピードを上げて練習します。練習全般に言えることですが、指使いはいい加減にせず、ある程度試行錯誤した後は、決めた指使いを守ることが大事です。間違った音を弾いたり、音がはっきり出ていない状態で繰り返し練習したりしていると、そういう良くないことが身につきます。速いパッセージでも1音1音がはっきりと聞こえるよう右手左手のタイミングをシビアに合わせましょう。ただし、メロディーの骨組みとなる音と経過的・装飾的な音を感じとってメリハリのある演奏を心掛ることが大事です。



PREV   BACK   NEXT