第1回 マンドリンってどういう楽器?




 マンドリンは日本人にもなじみの深い楽器です。その楽しくもはかなげな独特の音色は古くから多くの人を惹きつけてきました。比較的短期間で習得できるので愛好者も多い楽器ですが、本格的に取り組んでみると奥の深い楽器でもあります。

 17世紀ごろイタリアで生まれたマンドリンは、ナポリを中心地として発展してきました。南イタリア由来のエキゾチックな、そしてセレナーデを奏でるロマンチックな楽器として広まり、18世紀にパリなどの大都市でも流行しましたが、19世紀末から20世紀初頭にかけて本格的なブームが訪れます。楽器が改良され、奏法も発展して、マンドリン音楽はかつてない高みへ到達します。
 この時代がマンドリンの歴史上最も重要な時期であるといえます。日本で主流となっているマンドリン合奏もこの時代に生まれた一形式です。
 また、マンドリンというと、小刻みに連続して弾く「トレモロ」という奏法が特徴的ですが、この奏法が一般的に使われるようになったのもこの時代のことです。
 20世紀後半になるとドイツを中心に18世紀のマンドリン音楽が見直されるようになり、同時に現代音楽の分野でもマンドリンのための作品が作られるようになりました。
 一方、世界中に広まったマンドリンは様々な形に発展し多彩な音楽の楽しみを与えてくれています。ブラジルのショーロをはじめとする南米音楽や、アメリカのブルーグラスなどでは欠かすことの出来ない重要な役割を果たしています。

 日本においては、初めて紹介されてから100年以上ものあいだ、マンドリンの音色は多くの人々に愛されてきました。かつて詩人・萩原朔太郎をして「日本趣味」と言わしめたその音色は、後に古賀政男により昭和初期歌謡曲に取り入れられ、着実に日本の風土に根付きました。
 現在、学生や社会人のマンドリン合奏グループは、東京都内だけでも軽く100以上を数え、日本全国いたるところで演奏されています。マンドリンの生まれ故郷イタリアや、マンドリンの盛んなドイツと比較しても、圧倒的な演奏人口を誇る日本は世界的な「マンドリン大国」です。

 楽器で音楽を演奏することは、自分自身の表現であるというのがあくまで原点ですが、その上で技術的なことにとどまらず、マンドリンそのものの歴史や伝統を踏まえてこそ、ひとつの小さな楽器を通して大きな世界が広がってくるのだと思います。
 またその一方で、マンドリンが他のどんな楽器と似ているかを考えることは演奏上のイマジネーションを広げるために役立ちます。
 マンドリンはフレットの付いた撥弦楽器なので、基本的にギターと近いものですが、調弦はヴァイオリンと同じ五度調弦ですし、金属弦をはじくという意味ではチェンバロも非常に近いところにあります。また、ピックを使って弾く楽器なのでエレキギターやフォークギターの奏法と多くの共通点があります。この事実は、それらの楽器の曲や演奏がマンドリン上達のための参考になるということを示唆しています。また、もっとマンドリンに近いドムラやブズーキなどの民族楽器や、フラットマンドリン、バンドリンのような同種の楽器は、さらに身近で興味深いヒントを提示してくれます。
 様々な楽器の演奏を聴いたり、マンドリンとの類似点・相違点を考えることによって、マンドリンという楽器のイメージはさらに広がっていくと思います。



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