HOME主人敬白応接間ことばイラスト秘密部屋記帳所

「ひとりごと」目次へ
前へ次へ
きょうのことばメモへ三省堂国語辞典
email:
 ことばをめぐるひとりごと  その2

商品のオノマトペ

 友人の家庭で、テレビのワイヤレスリモコンのことを「くちんくちん」もしくは「くっちん」と言っていると聞きました。操作のときの音から付けられたということですが、その言語感覚には感心してしまいました。それだけテレビのリモコンが日常生活に密着しているということでしょう。
 「電子レンジで温める」ことを単に「チンする」などと言います。これも、電子レンジはほぼ毎日使うものなので、聞いてすぐに分かることばが自然発生したんでしょう。「チンする」の使用に東西の地域差はないようです。「チン」ではなくほかの電子音が鳴る電子レンジを使っているのに「チンする」を使う家庭もあるそうで、いかに定着しているかが分かります(追記参照)
 食品や家電製品には、こうした擬声語・擬態語(オノマトペ)の親しみやすさを利用して命名された商品が数多くあります。
 『日本ネーミング年鑑(1)'80−'94』(グラフィック社) に取り上げられた商品名をながめてみると、擬声語・擬態語による命名の多くは、食品(菓子、清涼飲料、加工食品など)、家庭用品、家電製品に集まっているのが分かります。
 食品の例を挙げると、「ポッキーパックンチョポポリパクッキーサクッチョコーンぽたぽた焼ぷっちんオレンジころころ白桃つぶつぶ果実でっ PHI PHI(フィフィ)ペンペコつるっとしこ丸ぷちっ子ぎょっとくんぷるるちゃんジュウジュウたこかいなパッ缶油快なキッチ〜ンほくほく米 ジュージューピタピタ講座」といった具合。
 家庭用品・用具では「ワクワクコール(風呂ブザー)、チョイソル(ひげそり)、 ハピカポイ(電動歯ブラシ)、ゴン(虫よけ)、おそうじパコ、ズバピタ(接着剤)、BUKUBUKU (発砲肥料)、 GACHUCK(ガチャック=書類とじ)、 チョッキン (はさみ)、tong・ton Club(まな板)、ごり・ごり(コーヒーミル)、ピチット(脱水シート)、どんと(使い捨てカイロ)、ハイサッサ(科学雑巾)、ホッカイロ(使い捨てカイロ)、すーすーこっとん(水虫防止具)」など。
 そして、家電製品では「TUTU(チュチュ=冷蔵庫)、クるリーナ(掃除機)、 じゅうじゅう(焼肉用鉄板)、ふっくら美人(電気釜)、ミンミン(エアコン)、 サラピッカ(皿洗い器)、POKA POKA TWIN(暖房機)、ポッカレット(ファンヒーター)、オスピカ(ライト)、ピカッシュ(靴磨き)、くるくる(ヘアーカーラー)」などがあります。
 一方、化粧品・衣料品・スポーツ用品・車の名などには、こうした擬声語・擬態語はほとんど使われないようです。もし使うと、分かりやすくなる代わりに、洗練された感じはなくなるでしょうね。いくら家族用の車でも、「すいすい」などという名が付くことはまずないに違いありません。擬声語・擬態語がよく使われるのは、家の中にある食品や家電製品などの名の特徴といっていいでしょう。「くちんくちん」の指す物がリモコンという家電製品であったのは、偶然ではないと思います。

(1997年記)

追記 「チンする」は佐竹秀雄『サタケさんの日本語教室』(角川文庫、2000)でも「国語辞典に載っていない語」として触れられています。松下電器が電子レンジ「エレックさん」を売り出した1970年後半、「エレックする」を広めようとしたことを僕も覚えています。こちらはオノマトペではありません。
 オノマトペの歴史を取り上げた山口仲美『犬は「びよ」と鳴いていた』(光文社新書、2002)でも「「チン」だけで電子レンジに入れることまで意味します」(p.65)と触れられています。
 同書にはまた、「パソコンを操作することは、「カタカタする」という成句になっているほどです」(p.68)ともあります。「パソコンを」という句を省いて「カタカタする」だけで理解できるならば、「チンする」と似ています。しかし、それほどまだ一般的ではないと思います。
 また、「ピンポンする」というのもあります。

よく芸能人の方がワイドショートかで「付き合ってるけど、まだ結婚なんて考えてないです」って言うでしょ。前は平気で聞けましたけど、自分が親になった夢を見た時から「許せん」って思うようになったんです。もし自分の娘がその相手だったらと思うと、そんなコメント腹が立って、その人の家をピンポンするかもしれない(笑)。

〔えなりかずき談〕(週刊文春 2002.02.14 p.139)

 「ピンポンする」だけで、「訪問する」という意味を持っているようです。(2002.09.25)

追記2 「チン」はあまり辞書には載っていませんが、境田稔信氏から、『三省堂国語辞典』に限って第4版(1992年)から載っているとご教示いただきました。
 今、その第5版を見てみると、

チン(名・他サ)〔俗〕電子レンジ(で調理すること)。

とあります。この辞典の行き届いた目配りには敬服します。
 編者である見坊豪紀氏の『新ことばのくずかご』には「チン」の1984年の用例が、また、『88年版ことばのくずかご』『89年版ことばのくずかご』にも用例が載っているという、これも境田氏からのご教示です。(2002.11.16)

「ひとりごと」目次へ
前へ次へ
きょうのことばメモへ ご感想をお聞かせいただければありがたく存じます。
email:

Copyright(C) Yeemar 1997. All rights reserved.