99.08.26
今一・意味深
「いまいち」は「今一つ」を縮めた言い方。「いみしん」は「意味深長」を縮めた言い方。『広辞苑』がこれらを取り入れたのは第4版(1991年)からです。比較的最近でした。
ついでに、『新明解国語辞典』では、「いまいち」は第4版(1989年)から。「いみしん」は現在でも未収録です。
こういうところを見ると、比較的新しいことばのようにも思われますが、僕の記憶からすると、そうではない。
「いまいち」を僕が初めて見たのは、小学校か中学校のころ、高松の歯医者の待合室で手に取った雑誌の中ででした。それはテレビ番組の紹介記事で、
「最近人気がイマイチのレツゴー三匹」
と書いてあった。だから、レツゴー三匹の人気がいまいちになったころの記事だと思います。1970年代末〜80年代初めじゃないかな?
辞書に収録されるのには、かなりタイムラグがあるという一例といえましょう。
「いみしん」のほうはもっと早く『日本国語大辞典』(1973年)に
「「いみしんちょう(意味深長)」の略」
と載っていて、「女学生仲間の隠語」とされています。「女学生」とあるからにはそんなに新しい語ではないという感じがします。
湯川れい子さんは、14歳の時に出したラブレターの中で次のように書いたそうで、テレビ番組の中でその古い手紙を読んでいました。
この意味深なことばを添えてあなたに差し上げます。(NHK「スタジオパークからこんにちは」1998.09.10 放送)
湯川さんは1939年東京生まれだそうですから、1953年ごろに書いたラブレターということになります。少女が使った例という点では、「女学生仲間の隠語」という辞書の記述となんとなく符合するようでもあります。
ところが、1933年に出版された浅野信『巷間の言語省察』でも、「意味深(イミシン)」は、「エロ・グロ・ナンセンス・テロ・モボ・モガ・ダンチ・彼氏(カレシ)」などと並んで出ています(p.44)。これらの語は「何れも幻影的・頽廃的・軽佻的・淫乱的心情を物語るものである」とされています。ただし、どのような人々が使ったことばかについては、詳しい記述がありません。
「いまいち」は、これほどは古くないと思うのですが、どうでしょうか。
おまけの話。丸谷才一氏の本に、「意味深長」の誤植がありました。
しかも黒岩徹さんの本によると、チャールズ皇太子の友達は、皇太子とダイアナ妃について、婚約前に、二人が共有するものは何もないと評してゐたのださうだ。意味深重(ママ)な発言である。(丸谷才一『男もの女もの』文藝春秋 1998.04.20 p.230)
「意味慎重」ならワープロにありがちの誤植ですが、ゲラでこうなっていたのを、つい「慎」だけにアカを入れて「深」に直したのかもしれません。このままでは「イミジンジュウ」と読めてしまう。
▼関連文章=「待望の第2版を手に取る」(今一について)
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