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きょうのことばメモへ三省堂国語辞典
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99.05.19

老眼を昔はどう言ったか

 近眼のことは和語(やまとことば)で「ちかめ」という。では、昔、老眼のことは、和語で何といったか?
 これが、簡単なようでなかなか分かりにくいのです。「ちかめ」は、平安時代の辞書「倭名類聚鈔(わみょうるいじゅしょう)」にも載っています。しかし、老眼はとくに病気と意識されなかったものか、和語としては古辞書に載っている例が見あたりません。
 「老眼」自体は、11世紀の日本の漢詩集「本朝麗藻」にも「老眼昏朦如遇夜」と載っているし、古いことばです。「平家物語」にも出てくる。でも、これは和語ではなく漢語だ。
 和語としては、明治19年(1886年)の『和英語林集成』に「TOSHIME トシメ n. Defective sight from old age, presbyopia.」とあって、当時「年目」という和語があったことが知られます。ただし、これが江戸時代以前にもあったかどうかは不確かです。
 方言としては、富山県東礪波郡で「とっしょりめ」(年寄り目)、沖縄県首里で「とぅしゅいみー」(同)というそうです。「年目」「年寄り目」に類する言い方が、ある時期に全国的だった可能性はあります。
 方言といえば、滋賀県で「めくらがり」(目暗がり)、沖縄県首里で「みーくらがん」(同)と言います。江戸時代初期の「醒睡笑」にも

延暦寺伝教の弟子慈覚大師、天長十年四十にて身つかれ眼{まなこ}くらし。命久しかるまじきことを思ひわきまへ、叡山の北谷に草庵をむすび、三年つとめ行じて終を待たれければ、(岩波文庫『醒睡笑(上)』 p.19)

とありますから、「眼・暗し」で、視力が弱いことを言うことがあったと考えられます。ただし、これはひどく視力が悪い場合を指すのでしょう。
 俳人森澄雄が1969年に発表した句集の名は「花眼」で、老眼という意味です。これは中国語によるもののようです。
 中国語では「花」に「ぼんやりしてはっきりしない」という意味があって、「昏花」というと「目がかすむ」という意味です。中国では、「花眼」をまた「老花眼」「老花」のようにも言います。
 唐の時代の施肩吾の詩に「花眼綻紅斟酒看」と出てきますが、これは花を人の目にたとえて言った語で、老眼とは関係ない。

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