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98.08.25

終戦後の読者欄

 新聞の読者欄には、いつも率直な意見が載っていて、参考になります。高校生のころは、投書なんて恥ずかしくてできなかったけれど、「成人したら、自分も負けずに意見を投書してやろう」と思っていました。ところが実際に成人してからも、やはり恥ずかしくて、いまだに投書をしたことはありません。だから他人の意見にはいつも感心してしまう。
 ところで、今の投書欄と、50年前の終戦後の投書欄を比べて読んでみると、すぐ気づく違いがあります。終戦後のほうが、なんというか、熱血して書いているのですね。「どうして戦争に負けたのか」「日本の何が間違っていたのか」というようなことから、「今の生活を政府に何とかしてもらいたい」という訴えまで、叫びのようなものが伝わってきます。
 その雰囲気を端的に表すのが「べきである」ということばの多用です。
 当時の「朝日新聞」の「声欄」は、15字×18行×8段ほどの、紙面の片隅の小さなコーナーでしたが、「べきである」が2、3回以上使われていない日はありません。詳しくは数えていませんが、たとえばこんな投書もある。

 旧日本滅亡後の「日本再建」は日本人民の組織訓練から始まるべきで現在行はれてゐるやうな一応尤もらしい巍峨たる構築設計は組織訓練されたる人民が後日自ら為すべきである。「日本の再建」の刻下の急務は人民が如何によく自らを組織訓練すべきかの一点に結集さるべきである(「朝日新聞」1945.12.19 p.3)

 投書欄とは思えないほど難しいことば遣いですね。しかし、短い間に、よくこれだけ「べき」「べきである」を使えるものだ。
 もっとも、当時はまだ一般の人が文章を書くときには、文語文の言い回しが残っていて、「〜ならぬ」とか「〜せんとして」などということばを老若男女が好んで使っていたのでした。
 今朝の「朝日新聞」の「声欄」を見ると、「べきである」は1ヵ所しかなく、全体としてはやさしい、落ち着いた雰囲気があります。政治に対する不満も、絶叫調ではなく、静かに客観的につづられています。
 平和というものはありがたいと実感するのはこういうときです。

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