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98.07.23

冷めたピザ

 24日に自民党の総裁選挙が行われ、たぶん小渕恵三氏が新総裁に選出されそうな雲行きです。自民党は破滅に向けて突き進むのだろうか……。
 それはともかく、この小渕氏は海外のメディアから「冷めたピザ」と評されているとか。言い得て妙だということで、日本の報道でもよく引用されています。後世、「小渕首相」のことが語られるとき、「冷めたピザ」の言い回しは付いてまわるかもしれません。
 とすれば、これをだれが言ったかを今のうちに記録しておくのは意味があることだ。「朝日新聞」夕刊98.07.17 p.18にはこうあります。

 小渕氏を「冷めたピザ」と記事で評した米国ニューヨーク・タイムズ東京支局長のニコラス・クリストフさんは「彼の名前を聞いても全然興奮してこない。だれも食べない食卓の残り物のようで、つまらないと言うことを伝えたかった」という。

 ではあれはニコラス・クリストフ氏の発言だったのだ。と、納得するのは早い。念のために、「ニューヨーク・タイムズ」の元の記事を見てみよう。
 アーカイブを検索すると、「ピザ」の話の載った記事は98.07.13付の「ニューヨーク・タイムズ」であるらしい。「Fresh Faces Are Few For Top Job In Japan」(「新しい人材なし 日本のトップ」)という記事で、「NICHOLAS D. KRISTOF」の署名入り。
 経済困難に立ち向かう人材が日本になく、小渕氏もその例外でないことを述べた上で、こう続けます。

Obuchi has all the pizzazz of a cold pizza,”said John F. Neuffer, a specialist in Japanese politics at the Mitsui Marine Research Institute in Tokyo.“He wouldn't be calling the shots,”Mr. Neuffer added of Mr. Obuchi, if he were to become Prime Minister.“He'd simply be a puppet for the party elders.”

〔「小渕氏は冷めたピザほどの魅力しかない。(首相になったとしても)自分自身では決断ができず、党長老の単なるかいらいにしかすぎないだろう」と日本政治が専門の三井海上基礎研究所のジョン・ニューファー氏は語る。=拙訳〕

 「pizzazz」というのがよく分かりませんが、「魅力」とか「役立つ点」とかいうほどの意味でしょう。「pizza」と韻を踏んでいるんですね。
 これを読むかぎりでは、発言者は在日本研究員のジョン・ニューファー氏であって、米紙の記者ではないのです。新聞報道はおおざっぱというべきです。

 ついでに、最近目にした「造語の主」ネタをもう一つ。「ヘアヌード」ということばを作ったのはこの人だそうだ(「朝日新聞」夕刊 98.07.18 p.11)

――「ヘアヌード(当初はヘアー・ヌード)」という言葉の生みの親、「週刊現代」前編集長(現・第一編集局長)の元木昌彦さんは、「陰毛・恥毛よりソフトで、淫靡{いんび}な感じがしないから」と「ヘア」を選んだ。〔ゴシック体は原文のまま〕

 この話は有名かもしれません。たしか、商標登録をしたとかしないとかいう話を聞いたことがあるようなないような。

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