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01.09.13

9月12日午前のこと

コラージュ 米で同時多発テロ  米で同時多発テロ、数棟におよぶ高層建築が倒壊という衝撃的な報に接し、日本語を研究する立場から言うべきことはゼロであります。一連の報道の中で気になることばがあるにはありますが、この際、それはどうでもよろしいでしょう。
 今回は、むしろ、その日の断片を記して、一種の言語生活の記録としておきます。

 11日深夜には、NHKテレビのニュースを見ていました。犠牲者の無念はもとより、その家族や知人の心情を思うとやりきれない気持ちになります。わけの分からない理由によって、最愛の人を失う辛さはいかばかりか。悲しみは一生消えますまい。テロリストは、そうした人びとへの想像力がはたらかない、幼稚でばかな集団なのでしょう。

 12日早朝届いた朝日新聞の朝刊は、幅2段分の横書きで黒地白抜きゴシックの「米中枢に同時テロ」という最大級の見出し。2、3、38、39面も、同様に幅2段分横書きの黒地白抜きとなっており、その視覚印象から、あらためて最大最悪の事件であることを痛感します。

 東京の朝は、台風一過の青空。午前11ごろ、JR中野駅前の売店に立ち寄り、ほかの新聞を買おうとすると、主要全国紙を立てておく場所が空っぽになっています。残っているのは、英字新聞、経済新聞、スポーツ新聞だけ。おやおや、まだ昼前なのにと驚いて、
 「ええと、おばさん、新聞は売り切れですか?」
 と聞いてみると、そうだという返事。
 こんなことがあるのかと思いつつ、反対側の出口に行ってみると、そこの店も同じように売り切れのもよう。中には、「朝日・毎日・読売・産経 売り切れです」と書いた段ボール紙で新聞立てを覆ってある店も。
 ふだんは、新聞が売り切れてもそんな告知をしてあるのは見たことがありません。きっと、いつもになく客の問い合わせが多いのでしょう。同時多発テロの詳報を知ろうとして、大勢の人が新聞を買って行ったのでしょう。
 全国紙の代わりに、スポーツ新聞がところ得顔に刺激的な大見出しを連ねていますが、信憑性があるのかどうか分かりません。買うのはやめておきます。

 新宿に出れば新聞は置いてあるのではないかと思い、中央線を新宿駅で降り、構内をうろついてみました。ところが、ここもすべて売り切れらしい。ホームの1カ所、南口の2、3カ所の売店で、新聞の棚がからっぽでした。
 なおも執念深く、駅中央通路のほうに回ってみます。あらためて、構内に売店が多いことを認識しましたが、どこもかしこも新聞は売り切れ。

 やや薄暗い、人気の少ないほうにある売店で、産経新聞があるのを見つけました。しかし、それはビニールケースに入った見本でした。
 「これは、売ってもらえないんでしょうか?」
 あえて問うてみると、売ってもよいとの返事。こうして、ようやく1紙を手にすることができました。
 産経新聞は「米に全面テロ攻撃」という、これも左右の幅いっぱいの黒地白抜きのゴシック。第1面には写真もなく(地図のみ)、下欄の書籍広告もなく、コラム(産経抄)さえ他の面に回して、文字ばかりの異様な紙面になっています。

 なおしばらく歩くと、こんどは東京新聞に出会いました。こちらは、白抜きゴシックではあるものの、右側に縦見出し分のスペースを空けたサイズで「米の中枢 同時多発テロ」とあります。
 どうも、失礼ながらマイナーな新聞しか残っていないようだと思っていると、その東京新聞の陰には読売新聞もありました。読売も左右いっぱいに「米の中枢狙い同時テロ」。火の手の上がる世界貿易センタービルの大きな写真がカラーで載っており、いかにも末期的な印象を与えています。
 結局、主要紙のうちで毎日新聞だけは入手することができませんでした。毎日の論説は、ときどき他紙にない光ることが書いてあり、期待していたのですが。

 昼食を取りながら、各紙を読み比べてみましたが、どうもニュースソースが限られているらしく、新聞ごとの違いはあまり読み取れませんでした。
 社説は、朝日が「これは世界への挑戦だ」、読売が「絶対に許せない犯罪行為だ」、東京が「世界の平和への挑戦」とあって、第2社説はいずれも日本での狂牛病の発生についてでした。産経は間に合わなかったのか、米での同時多発テロに関連する社説はありませんでした。

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