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01.03.01

記号の読み方

 このほど刊行された『三省堂国語辞典』第5版には、いちばん最後に記号の読み方が載っています。こういう試みは珍しい。なるほど、記号の読み方は辞書には載っていてほしいものですが、盲点だったのではないでしょうか。
 記号には、決まった音がないので(あれば記号ではなく文字になる)、読み方には困りますね。
 いつぞや(というのは 2001.02.18 01:20)、NHKの「爆笑オンエアバトル」という番組で、村田渚なる男性コメディアンが、プラカードに書いたいろいろな漢字に向かってぶつぶつ文句を言うコントがありました。「萩・荻」は形が似すぎているとか、「凸凹」は漢字とは思えない、とか。「」に向かっては、「お前、何て読むんだ」と言って会場の笑いを誘っていました。
 僕は自分のワープロに「ノマ」と読みを登録していますが、正しくは「どうの字点」。1946.03に出た文部省教科書局調査課国語調査室の「くりかえし符号の使い方〔おどり字法〕(案)」にそう出ています。「仝」(同)の字から転化したものということです。もっとも、この呼び名がいつごろからあったのかは知りません。
 『三省堂』第5版には、この「々」のほか「ゝ」「〃」「※」などいろいろな記号の読み方が出ています。
 「○」の中に「メ」を書く記号も出ていて、これは「まるメ」、つまりメーカー希望小売価格を表すらしい。見たこともありません。
 米川明彦氏によれば、「○」に文字を書く記号は「マルソウ(走)」(暴走族)、「マルボウ(暴)・マルB」(暴力団)、「マル害」(被害者)、「マル被」(被疑者)……などがあり、警察・探偵・税務署・保険会社などで盛んに使われる由(「言語」2001.03)。米川氏は「マル語」と呼んでいるそうです。
 「#」「*」は『三省堂』第5版ではそれぞれ、「シャープ」「アステリスクアステリアステ」としか載っていないけれど、これは別の呼び名もあります。

ためしに辞書を引いてみると(すぐに辞書を引くのが僕の数少ない美点のひとつである)、#がpound signと呼ばれているという記述があるのは(2)の「ランダムハウス英和」だけだった。「リーダーズ」には。poundの項には£のマークしか出ていなかった。これは厚さ=情報量の差だけによるものではない。pound signは「ランダムハウス」第一版には見あたらないから、改訂にともなって、コンパクトになるのと同時に、細かい部分までが洗いなおされて、進化しているのだということがわかる。ちなみに*(アステリスク)は別名star keyと呼ばれているのだけれど、知っていましたか? これは双方の辞書にちゃんと出ている。(村上春樹「週刊村上朝日堂」・週刊朝日 1996.08.02 p.64)

 つまり「パウンドサイン」「スターキー」とも言うのですね。「*」を「アスリスク」という向きもあるけれど、原語の発音に照らして、いかがなものか。
 「△」はどうでしょう。「三角」でもいいけれど、江戸文学をやっている人は「うろこ」という。明治の仮名垣魯文「安愚楽鍋」には次のように出てきます。

さいけんのくらゐづけは、山がたにうろこ、仲の丁のよひだしなれども、(岩波文庫 p.50)

 記号ではありませんが、カタカナの「キ」の字を字形から「蜻蛉とんぼ)」という例も「安愚楽鍋」には出てきます(岩波文庫 p.54)
 では、歌詞を文章に引用するときなどに使う「」はどうでしょうか。山の頂点が一つだけの「へ」のような記号とあわせて「合点(がってん)」、または、「庵点(いおりてん)」というようです。
 竹岡正夫『かざし抄新注』(風間書房)ではちょっと違っていて、「合点」の中に「へ」(長点)と「」(庵点)とがあるとしていて、山の頂点が2つあるものを特に庵点と呼んでいるようです。
 ここまで来たので、ついでに、視力検査の時に使う「C」のような記号は何というでしょう?

訓練板には、同町出身の世界的な細菌学者、北里柴三郎の肖像も描かれ、7個のランドルト環(輪の一部が欠けた視力検査用の記号)で視力0.1から0.7まで検査できる。(朝日新聞夕刊 1999.11.27 p.3)

 正解は、「ランドルト環」であるようです。

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