秩父夜祭が近づくと、秩父屋台囃子がマスコミに扱われる機会も多くなります。

 しかし、秩父屋台囃子に関する報道では、屋台町の伝承者がその担い手として取り上げられることは希です。
代わって、屋台町における伝承活動との関連性を持たず、「家元」を名乗って秩父屋台囃子とは異質の太鼓芸を行う団体の主宰者が大きく取り上げられ、秩父屋台囃子の代表として扱われます。

 マスコミの無知に付け入った成果とも言えますが、その結果、秩父夜祭の当日、笠鉾・屋台の中で秩父屋台囃子を実際に演奏し、祭りを陰で支える伝承者が祭りの主体として、社会一般に認識されないという事態が依然として続いています。

 「マスコミの無知」と笑うのは簡単です

 しかし、報道に携わる記者がいくら優秀でも、新たな勤務地に赴任し、その土地について殆ど情報のない中で、ネタを売り込まれれば鵜呑みにするでしょう。

 事態を招いた一因は、秩父屋台囃子の伝承を担う側が報道対応を行わず、マスコミとの良好な関係を築く努力を怠ったことにもあります

 一方、近年になって変化の兆しも見えてきました。

 テレビ埼玉は、ユネスコ無形文化遺産登録記念番組として『埼玉の誇りと魂 秩父夜祭と川越まつり』(平成28(2016)年12月27日)を放映。番組が追いかけたのは、無定見に「万歳」する行政ではなく、大祭の一日を通じた屋台行事で様々な役割を果たす人々、特に、華やかな祭りの陰で秩父屋台囃子を次につなごうと懸命に努める者達の生き生きとした姿でした。

 また、東京新聞は、屋台町での屋台囃子の伝習(平成30(2018)年11月27日付)と併せて、秩父夜祭の太鼓を手掛けるベテラン太鼓職人を紹介(翌28日付)。太鼓づくりにかける職人の心意気と独自の「共鳴、うなり」の秘密に迫りました

 伝承を担う側が適切な報道対応を重ねれば、いつか実を結ぶ好例です。

 祭りを行い、継承しているのは、そこに暮らす人々です。報道が秩父屋台囃子を伝えるのであれば、日常生活を送る地域共同体の中で、屋台囃子を次の世代に継承しようと努める人々の姿であるはずです。

 報道には、祭りを誇りに秩父に生き、屋台囃子の継承にかける人々の姿を追って、その行動、思いをしっかりと伝える姿勢が求められます。


(2022年 4月 30日  中村 知夫)

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