人は職業に就き、それぞれの地域で自らの役割を果たしながら社会生活を送っています。地域共同体には、年間を通じて様々な年中行事があり、祭礼が人々を結ぶ絆となって心を支え、継承されています。

 
祭り囃子は、地域社会で年間を通じて、健全に社会生活を送った者がそのけじめとして迎える祭りで演奏されるもの。秩父屋台囃子もまた、規模の大小にかかわらず、秩父地域の各地の祭りで、一年をそこに暮らす人々によって演奏される祭り囃子です。




 今日、祭礼との関連を持たない様々な太鼓芸が「秩父屋台囃子」や「屋台囃子」、「秩父」などの名称で、イベントの舞台などで演奏されています。

 秩父にも、秩父神社例大祭の当日、笠鉾・屋台の曳行などの屋台行事をよそに「秩父夜祭に参加」と称して、駅前や小売店の仮設舞台で観光客を相手に太鼓の演奏を披露するグループがあります。

 中には、「家元」、「秩父屋台囃子保存会会長」を名乗り、秩父屋台囃子の代表として振舞う者まであります。一般的に家元になるのは簡単です。ある流派を立ち上げ、家元と称するのは自由だからです。しかし、問題はそこからです。その家元に付いて行こうという人間の有無と、いま一つ肝心なことは、同好の者が共に手を携えるに足りると認めるかどうかです。家元と称し、その正統性を主張するのは自由ですが、マスコミの無知に付け込むことは出来ても、屋台町の伝承者から横を向かれ、一緒に行動しようとする者がいません。




 今日、「無形文化財」という看板を掲げ、祭礼以外の公開の場で太鼓を披露するグループを見かけます。しかし、看板はいくら立派でも、文化財指定の真偽はすぐに判明します。

 埼玉県ホームページの「文化・教育」>「文化」>「文化財」>「埼玉県内の国・県指定等文化財」>「埼玉県の国・県指定等文化財の一覧」の「重要無形民俗文化財(PDFファイル)」でご確認ください。確認は→こちらから

 秩父屋台囃子は、「秩父祭の屋台行事と神楽」の一つとして、昭和54年2月3日に国の重要無形民俗文化財の指定を受けました(文部省告示第11号)。保護の対象は屋台行事です。屋台行事を行うのは、六つの屋台町以外にありません。




 秩父屋台囃子が元になったと称し、「屋台囃子」や「秩父」などの名称で、舞台上の床や櫓に並べた複数の大太鼓での組太鼓を披露する「創作太鼓」の演奏グループがあります。中には、ふんどし一つで大太鼓の前に両足を投げ出し、すりこぎ状の撥を手に、後ろに寝転んでポーズを決めるなど、舞台上で繰り広げるパフォーマンスが観客を魅了します

 しかし、地域の祭りで演奏される祭り囃子の観点からは、地域共同体で社会生活を送らない者による「創作太鼓」の演奏に接点を見いだし得ない。「伝統」「感動」「魂」と美辞麗句を並べても、「テレテッケ・テレテッケ」の基本リズムも刻めず、無残に改変した奇妙なフレーズを大勢で繰り返す太鼓の演奏は、秩父屋台囃子から見れば、遠いカオスの世界からやって来たはぐれ者。観る者がどれだけ感銘しようと、共感するものは何もありません。

 和太鼓の奏者にプロとしてのプライドがあるなら、「屋台囃子」や「秩父」などの名称を用いて、秩父屋台囃子を自らの創作太鼓に強引にこじつけるのは、やめにしてはどうか。紛らわしく、知ろうとする者にこれが秩父屋台囃子との誤解をもたらし、秩父屋台囃子に対する認識の足かせになっているからです。

  (2020年11月16日  中村 知夫)

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