今月の提言


8月の提言『混迷の時代に求められるリーダーシップ』



民主党の代表選が終わり、英語版ブルームバーグは"Finance Chief Noda Wins Japan Leadership Contest" と野田氏の勝利を伝えた。民主党代表選は日本の総理を選ぶことになるからLeadership Contestなのだと納得した。

日本の総理大臣はこの30年間に19人誕生した。1980年7月に就任して1982年11月に退陣した鈴木善幸氏から菅直人氏まで18人で野田佳彦氏が19人目となる。小泉純一郎氏が2006年9月に退陣後5年間で安倍晋三氏から菅直人氏まで5人の総理が替わり、大体「1年政権」であった。このような短命政権ではリーダーシップなど期待する方が無理という向きもあるが、筆者はリーダーシップに問題があったから短命に終わったと思う。

では、そもそもリーダーシップとは何を意味するか。一般にはそれはリーダーとしての資質、能力をいう。ドラッカーはリーダーとは「部下に対して、明日に向かって正しいことをさせる人」と述べているが、リーダーシップとはそういうことが出来る能力・資質ということになる(注1)。。

リーダーシップを発揮する上でリーダーには具体的にどのような能力が必要か。筆者は、MITのスローン・スクールの教授達が提唱した次の4つに注目している(注2)。
  1. 状況認識能力
  2. 人間関係構築能力
  3. ビジョン策定能力
  4. 創意工夫能力
まず、状況認識に優れたた人は、ステークホルダーなど複数の情報源からデータを入手しようとし、意見の異なる人々を含めそのデータを検証、新たな可能性を考慮する。次に、人間関係を築くには、時間をかけて相手の見解を理解することから始める。自分の見解を述べる前に相手の発言を促し、自分の見解を述べるときには事前に最適な説明を考慮し、結論に至ったプロセスまでよく説明する。また、ビジョンを描くには、日頃からそれを考えていることが肝要だ。そして、そのビジョンの大切さや、それによって達成できる事柄をよく説明できるように準備する。もし理解がえられないようであれば、共通のビジョンをつくり上げるように努力する。創意工夫に優れている人は、新しい仕事や課題に直面した場合、これまでの方法がベストであるとは考えずに、絶えず選択肢があるかどうかを確認しながら新しい方法で取り組みように努める(注3)。

上記の能力をすべて保持する「完全なリーダー」は少ない。そのため自分がどの能力が欠けているかを認識し、欠けている能力は部下や同僚に補ってもらいながら協調して創造的な仕事をする「分散型リーダー」こそ、これからのリーダーだという。

ところで、筆者は上記の4つの中で3番目のビジョン策定能力が最も大事だと考える。今、世界は再び世界同時不況に陥るリスクをはらむなど混迷の時期を迎えている。このような時期こそ「明日に向かって正しいこと」をさせようと思えば、まず明日のイメージを明確にしなければならない。つまり、私たちがどこに行くべきか、どうあるべきかを明らかにすることが肝要だ(ビジョンの明確化)。そして、こうしたビジョンを達成するためのシナリオを示すことが不可欠なのである。

政治のトップにしても企業のトップにしてもリーダーシップを発揮するには、まず単なるスローガンや美辞麗句ではなく実現可能な具体的なビジョンを示し、国民あるいはステークホルダーと夢を共有すべきだと思う。そのビジョンが多くの人に支持されるのであれば、他の3つの能力が極端に劣らない限り人々はついてくるだろう。

ここ数年政治的にはリーダーシップ不在だといわれてきた。だが、企業はリーダーとそのリーダーシップによって業績が左右されるだけに、リーダーシップ不在では企業の盛衰に関わる。ビジネスパースンも政治家も、今一度リーダーシップの意味を熟考しその重要性を正しく認識して実行してほしい。


注1:
リーダーはグループ,組織などの集団を代表し,指導,統率する特定の地位のことをいう.一方,リーダーシップに関しては心理学や経営学,政治学など様々な専門分野での研究があるが,ここでは単純にリーダーとしての能力,資質としておこう.

注2:
D. Ancona, T. W. Malone, W. J. Orlikowski and P. M. Senge, "In Praise of the Incomplete Leader," Harvard Business Review, Feb, 2007.(「完全なるリーダーはいらない〜分散型リーダーシップのすすめ」『DIAMONDハーバード・ビジネス』07年9月号所収).

注3:
4つの能力に関しては,2007年10月の提言『リーダー育成のすすめ』に基づく.



(先月の提言はこちら.これまでの提言はこちらをご覧ください)



トップ・ページへ




ご質問、お問い合わせは下記までお願いします。

© 1997-2007info@asktaka.com