毎年夏休みの時期は、本提言においてお薦めの本を紹介していた時期があった。今月は久しぶりにお薦めの書物を紹介したい。「現代の古典」ともいうべき次の5冊である。 まず、マネジメントを考える上で次の3冊をお薦めしたい。
一部の論者は、M&Aや提携などが活発なことから、自社も競争相手もさらに顧客も定義できない時代になったという。こうした時代にはポーター流のバリュー・チェーンで戦略を構築するやり方は通用しないと。しかしながら、よく考えてほしい。ライバルも顧客も定義できない時代とはいえ、競争がなくなるわけではない。3つの基本戦略は現在でも有効なのである。また、コスト・リーダーシップ戦略を実行する場合、グローバルなバリュー・チェーンを構築するのは定石といえる。本書を再度熟読して、戦略の本質を考えてはどうか(注1)。 『ビジョナリー・カンパニー』は、ビジョンや理念が確立している企業は結果として収益率が高いことを実証研究した。本書はビジョンを持ち、未来志向で、卓越した企業を18社選び競合企業との違いを調査した結果、永続した卓越性の源泉は「基本理念」にある ことを明らかにした。ソニーやIBM、3M、GE、P&Gなど18社のリストは脚注を参照されたい(注2)。 ビジョナリー・カンパニーの条件は、次の6つである。
『企業家とは何か』はシュンペーターの企業家に関する4つ論文を翻訳して収録したものである。第1章では、企業家の機能とは、「経済の分野におけるリーダー機能」であると説き、次の5つの難しい課題を克服するために経済的リーダーシップが不可欠であるという。
次の2冊は、未来を考える上で押さえておくべき書物である。
ネクスト・ソサエティは知識社会であり、知識が中核資源となり、知識労働者が中核の働き手となるとするドラッカーの主張は示唆に富む。つまり、知識社会としてのネクスト・ソサエティは、知識は資金よりも容易に移動するゆえに境界のない社会、全ての人に教育の機会が与えられるがゆえに上方への移動が自由な社会が実現するという。さらに全ての人が生産手段としての知識を入手できるが、勝者と敗者がはっきりする社会が到来すると予想した。経営哲学者、人間学者あるいは未来学者と呼ばれたドラッカーの『ネクスト・ソサエティ』は一読に値する。 『文明の衝突』は911を予告した書としても知られている。すなわち、「西洋文明」と「イスラム・儒教コネクション」とはそのうち衝突するだろうとする予告である。著者のハンチントンはハーバード大学のジョン・M・オリン戦略研究所の所長を務めた冷戦時代の戦略家である。 ハンチントンは西洋と非西洋とが衝突し、西洋文明とイスラム・儒教コネクション文明とが衝突するだろうと予想したが、この前提には近未来の世界は8つの文明の時代が到来するという予想がある。つまり、西洋文明(欧米)、儒教文明(中華文明)、日本文明、イスラム文明、ヒンドゥ文明、スラブ文明、ラテンアメリカ文明、アフリカ文明、この8つである。近未来に文明間の世界戦争が起こりうるという結論には賛成しかねるが、世界情勢を歴史的に捉えた世界観はこれから世界をみる上で参考となる。 以上、今回は5冊をお薦めしたが、明日のマネジメントを考える上で少しでもヒントになれば幸いである。 注1: ポーター教授の戦略論に批判的な論者の一人は大前研一氏である.大前氏は,市場,顧客をベースに戦略を考える立場だが,市場・顧客に立脚しても3つの基本戦略を否定する必要はない.市場・顧客に適合した差別化戦略、コスト・リーダーシップ戦略をとればよいのである. 注2: 調査対象となったビジョナリー・カンパニー18社は次の通りで,括弧内は比較対象となった企業である.3M(ノートン),アメリカンエキスプレス(ウェルズ・ファーゴ),ボーイング(マクダネル・ダグラス),シティコープ(チェース・マンハッタン),フォード(GM),GE(ウェスチングハウス),ヒューレット・パッカード(テキサス・インスツルメント),IBM(バローズ),ジョンソン&ジョンソン(ブリストル・マイヤーズ),マリオット(ハワード・ジョンソン),メルク(ファイザー),モトローラ(ゼニス),ノードストローム(メルビル),プロクター&ギャンブル(コルゲート),フィリップ・モリス(R・J・レイノルズ),ソニー(ケンウンッド),ウォルマート(エームズ),ウォルト・ディズニー(コロンビア),以上18社. |
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