今月の提言


6月の提言『株主総会とコーポレート・ガバナンス』



今年の3月期決算企業の定時株主総会の集中日は6月29日である。東証上場企業1,718社中556社、41.2%がこの日に集中している。これまでの集中率の推移をみると、1988(S63)年から1998(H10)年までは90%台であったのが、徐々に低下し2008年には50%を下回りその後も逓減傾向にある。とはいえ、まだ40%の東証上場企業があえて集中日を選択している(注1)。

かつて日本企業の株主総会といえば、総会屋対策に追われた歴史があり、その対策の一環として集中させたという経緯があるようだ。しかし、今や総会屋の時代は過去のもとなった以上、総会を集中させる必要はない。筆者は日本企業の株主総会も米国など海外企業のように開催日程を広く分散化することが肝要だと考える。現在総会は決算日の3カ月以内に通常行われる。これは配当金支払のための基準日設定との関係で慣例的に定められたものだという。この慣例を打破すればさらに分散化が進み、より多くの株主が総会に出席する機会ができる。

ではなぜ株主総会は分散化すべきなのか。それはコーポレート・ガバナンスにとって好ましいことだからである。日本企業も海外企業、例えば米国企業も定時株主総会の主要な議案は、取締役の選任であることには変わりはない。株主総会が企業の最高の意思決定機関であり、企業経営に携わる取締役の選任権をもつことは企業統治の要である。この意味で総会に数多くの株主が集まるように務めることは、コーポレート・ガバナンスの第一歩なのだ(注2)。

ところで、コーポレート・ガバナンスの本質は何か。所有と経営が分離している現代の株式会社は、株主が経営者に経営を委任している形であることは周知の通りである。このような依頼人つまり株主と代理人である経営者との関係において、経営者が株主の利益よりも自己の利益を追求するというモラル・ハザードが生じることがある。こうした問題を解決するには、依頼人である株主の利益が守られるよう代理人である経営者を監視し、コントロールする仕組みが必要となる。この仕組みがコーポレート・ガバナンスなのである(注3)。

ごく自然に考えて、経営者が企業価値を最大にするような戦略を推進し、業務遂行をマネジメントして成果が業績として現れていれば、株主が会社が提案する議案に反対することはないだろう。いわゆる「物言う株主」が問題としたのは、経営者が経営資源を有効に活用していないという点が多かったと思う。だとすれば、経営に自信があれば株主が大勢集まろうとも恐れることはない。開かれた株主総会をアピールして、集中日を避けて多くの株主が集まりやすい日に開催すべきではないか。

集中率が40%強に低下して、6割の企業が上記の点を認識し、より開かれた株主総会を目指すようになった。残された4割強の企業は、来年こそは従来通り集中日に総会を開催することなく、前倒しして開催することを期待したい。取締役の選任を議決する株主総会を形骸化することなく、ステークホルダーとしての株主の意見を聞く場として見直してほしい。個人株主数は2010年度に4,500万人を超えて過去最高を記録した。個人株主はステークホルダーであるとともに消費者でもあることを忘れるべきではない(注4)。


注1:
東証のプレスリリースによる.詳しくは下記を参照.

http://www.tse.or.jp/news/10/110613_a.html

注2:
米国企業の株主総会の会社側議案は,大部分が役員選任案中心であり,その他ば株主提案が多い.

注3:
これが経済学でいうプリンシパル・エージェント理論(エージェンシー理論)によるコーポレート・ガバナンスの必要性である.

注4:
現状の日本企業の株主構成をみると個人株主は単元ベースで29%となった.かつての「株式持ち合い」全盛時代に比べると,個人株主数は2010年度に4,500万人を超えて過去最高となった.詳しくは下記を参照.

http://www.tse.or.jp/market/data/examination/distribute/index.html



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