今月の提言


5月の提言『M&Aと経営のグローバル化』



最近、経営トップや幹部と懇談するとM&Aの話が多い。それもそのはずで、水面下で外国企業を買収しようとの動きが活発だ。先日、武田薬品工業がスイスの製薬大手ナイコメッド社を96億ユーロ(約1兆1,100億円)で買収すると発表したが、大型買収だけに話題になった。一方で、企業規模、業種を問わず国内企業が外国企業を買収する、いわゆるIN-OUTが活発化している。例えば、5月に発表された主なIN-OUT案件は次の通りである(レコフ「M&A関連ニュース」による。新着順)。
  • コクヨ、印文具大手のカムリンを買収へ
  • 黒田電気、ベトナムの自動車部品メーカー、ボラムテックを買収へ
  • 住友倉庫、米海運事業のウエストウッドシッピングラインズを買収へ
  • フジクラ、英情報通信ネットワーク事業のTCCグループを買収へ
  • 武田薬品工業、スイス製薬大手のナイコメッドを買収へ
  • 東芝、スイスのスマートグリッド関連電力計大手のランディス・ギアを買収へ
  • NTTデータ、英システム会社のコンテンポラリーを買収
  • ミツカングループ、米調味料会社ボーダーフーズの親会社、ボーダーホールディングスを買収
  • テルモ、米細胞治療ベンチャーのハーベスト・テクノロジーズを買収
  • 東芝メディカルシステムズ、米医療画像ソフト事業のバイタル・イメージを買収へ
  • セブン&アイHD、コンビニ展開の米WFIグループを買収へ
  • ショーワ、ベトナムの緩衝器製造のマシノ・オートパーツ・カンパニーを買収へ
わが国のM&A件数は1997年の持株会社解禁と株式関連法整備の後、順調に成長し、2005年から2007年には年間2,500件を超えるに至った。しかしながら、2008年9月のリーマンショック以降M&A件数は減少傾向にあり、2010年のM&A件数は1,707件、件数ベースで対前年12.8%減、金額ベースでは18%減であった。ところが内訳をみると、いわゆる国内企業同士のM&AであるIN-INが約70%を占めるものの前年の78%から大幅ダウンした。だが、IN-OUT件数は前年の299件から371件と24%増で、全体の22%を占めた(前年は約15%)(注1)。

このようにリーマンショック後もIN-OUTが増加するのは、主に次の3つの要因があると思われる。
  1. 円高による海外企業買収コストの割安感。
  2. 国内市場の成熟化に伴うエリアポートフォリオの強化。
  3. 既存事業の強化や多角化の一環として海外企業の資源を活用。
上記についてはあえて説明するまでもないあろうが、M&Aの魅力は「時間を買う」ことであり、売上規模を一挙に拡大できる点にある。問題は、M&Aを活用してグローバル展開を図る場合の日本企業のマネジメントである。

日本企業の場合、海外現地法人のトップはほとんどが日本人である。しかしながら、日本に進出しているグローバルな外国企業の経営トップの顔ぶれを見ると、多くは(英語の話せる)日本人で外国人トップは少数派である。この差はどこにあるのか。日本企業の経営トップは英語を自由に使える人が少ないため、日本語でコミュニケーションが出来る現地法人トップでないと困る、それゆえ日本人社長が多い、ということのようである。海外で日本語が達者でかつマネジメント能力がある外国人を探すことは難しいだろう(注2)。

はM&Aによって海外企業を買収しグローバル展開を加速化することは、筆者は諸手を挙げて賛成である。ただし、日本企業のマネジメントもグローバル化してほしいと願うのである。具体的に、マネジメントのグローバル化とは何か。筆者は、次の3点をイメージしている。
  1. ビジネス、マネジメントが卓越しているだけでなく英語も出来る本社トップ(注3)。
  2. 取締役の国籍の多様性、つまり外国人取締役が半数前後は存在。
  3. 現地法人の幹部、スタッフはもちろん、本社の社員も外国人を多数採用。
筆者は大学院で多国籍企業論を講義しているが、講義ではマネジメントのグローバル化にとって「異文化マネジメント」の重要性を説いている。しかしながら、実務的にこれを実現するとなると、人の側面が大きく左右する。人材のグローバル化なくしてマネジメントのグローバル化はありえないと思うのである。そして、実際に本社、現法に多くの外国人幹部、スタッフがいれば、おのずとマネジメントのグローバル化が実現するだろう。先ずは、外国人取締役の選任、外国人社員の採用を促進してみてはどうか。


注1:
レコフ四半期レポート「2010年1-12月の日本企業のM&A動向」による.

注2:
日本企業の海外子会社の現状や経営幹部の現地化の遅れに関しては,南山大学教授吉原英樹氏による次の論文を参照.

「海外子会社の現地人社長」,『経済経営研究年報』(第43号pp.11-40,神戸大学経済経営研究所,1994年3月)

「海外子会社の自主経営と現地人パワー」,『組織科学』(第23巻第2号pp.10-18,白桃書房,1989年11月)

注3:
トップの英語力に関しては、2010年11月の提言『グローバル経営とトップの英語力』を参照.

http://www.csconsult.co.jp/teigen/1011.html



(先月の提言はこちら.これまでの提言はこちらをご覧ください)



トップ・ページへ




ご質問、お問い合わせは下記までお願いします。

© 1997-2007info@asktaka.com