今月の提言


3月の提言『「世界で最も賞賛される会社」をみて思うこと』



米国のビジネス誌フォーチュン誌が恒例の"World's Most Admired Companies(世界で最も賞賛される企業)"を発表した.今回は賞賛企業の顔ぶれをみて,所見を述べてみたい(注1).

先ず,賞賛企業を選んだ評価項目は次の9つである(括弧内はそれぞれの項目でトップの企業).つまり,革新性(Apple),従業員マネジメント(Goldman Sachs Group),資産活用(McDonald's),社会的責任(Statoil),経営の質(McDonald's),財務の健全性(Google),長期的投資(Google),製品・サービスの質(Amazon.com),グローバル競争力(McDonald's)である.フォーチュン誌では57業種に分けて業種別トップ10も発表しているが、ここでは全産業のトップ10をみてみよう(注2)


The Top 10 of WMAC
順位200620102011
1General ElectricAppleApple
2FedExGoogleGoogle
3Southwest AirlinesBerkshire HathawayBerkshire Hathaway
4Procter & GambleJohnson & JohnsonSouthwest Airlines
5StarbucksAmazon.comProcter & Gamble
6Johnson & JohnsonProcter & GambleCoca-Cola
7Berkshire HathawayToyota MotorAmazon.com
8Dell ComputerGoldman SachsFedEx
9Toyota MotorWal-Mart StoresMicrosoft
10MicrosoftCoca-ColaMacDonald's

昨年と今年の結果はトップ3は不変である.1位のアップルは革新性の評価がトップであるほか、従業員マネジメント、財務の健全性の評価が高い.iPad 2やiPhone 4などの矢継ぎ早な新製品投入がヒットしたことが評価されたものと思われる。2位のグーグルは財務の健全性と長期的投資に対する評価はトップである.革新性、製品・サービスの品質及びグローバル競争力は2位に評価され,全般に高評価である。3位のバークシャー・ハサウェイは世界最大の投資持株会社で,著名な投資家であるウォーレン・バフェットが会長兼CEOとして経営に携わっている.同社は各評価項目で10位以内にランクされていないが,桁外れの株価上昇と複利計算で約20%のリターンを40年以上継続しているといわれる伝説的な運用成績が評価されたのであろう.

4位以下は,サウスウエスト航空,P&G,コカコーラ,アマゾン・ドット・コム,フェデックス,マイクロソフト,マクドナルドの順であった.2年連続で上位10社に入ったのは上位の3社とアマゾン・ドット・コム、P&Gそしてコカコーラを含めた6社であった.

ちなみに,筆者の手元には2001年のランキングがある.トップ5は1位がGEで,以下シスコシステムズ,ウォルマート,サウスウエスト航空,マイクロソフトの順である.2007年まではGEがトップの座にあったが08年以降はアップル4年連続でトップである.

それから、上位50社中日本企業は3社で、33位にトヨタ,42位にホンダ,46位にソニーがランクされている.2009年には、3位にトヨタ,32位にホンダ,39位にソニー,46位に豊田自動織機と4社が入っていた.トヨタはリコール問題の影響もあって2010年以降大幅に順位を下げた.賞賛企業350社中日本企業は15社,国別では米国、ドイツに次いで3位であった。

フォーチュン誌は毎年世界の売上高ランキングに基づく「グローバル500」を発表している.2010年の結果を国別にみると,トップ5は米国(139社),日本(71社),中国(46社),フランス(39社),ドイツ(37社)の順である.日本企業のトップはトヨタで71位は大日本印刷である.グローバル500企業が世界が認める大企業とすれば,日本の企業は約14%を占め,米国に次いで存在感を示している(注3).

では,賞賛企業とグローバル500とでは日本企業のプレゼンスに差があるのはなぜか.理由の一つは,企業の評価者が米国視点で評価しているからだといえそうだ.実際の評価はフォーチュン誌と人事コンサルタント会社ヘイグループが行っていて,筆者は評価者のバイアスを感じる点は否めない.

しかしながら,筆者は日本企業が「賞賛企業」として評価されないのは,日本企業特有の弱点があるからではないかと考える.トヨタのリコール問題,今回の大地震の東京電力の対応をみるとその感を強くする.つまり,次の3点を感じるのである.

  1. 企業のトップの顔がみえない.
  2. 意思決定,判断が遅く対応が後手に回る.
  3. 広報下手で情報開示が不徹底.
企業が評価されるには,自己満足の世界ではいけない.自社が何を考え,どのようにそれを実現しようとしているのか,これらをステークホルダーに巧みに伝えるべきである.これからの企業は,フェースブックやツイッターなどのソーシャルメディアを含めて,いかに社会あるいはステークホルダーとのコミュニケーションをとるかが,ブランドの構築や評価につながる。顔の見えない企業では,賞賛はおろか評価されないのは当然である.

筆者はフォーチュン誌の「賞賛企業」にランキングされることに目の色を変える必要があるとは思わない.ただ,この際なにゆえに日本企業が評価されないのか,上記の3点を踏まえて考えてほしい.


注1:
ランキングに関して詳しくはフォーチュン誌,2011年3月21日号を参照.Web版は下記URLを参照のこと(2006年からのランキングも参照可).

http://money.cnn.com/magazines/fortune/mostadmired/2011/index.html

注2:
評価項目別トップ3は下記の通り.

  • 革新性:アップル,Google,ナイキ
  • 従業員マネジメント:ゴールドマン・サックス,アップル,ウォルト・ディズニー
  • 資産活用:マグドナルド,ネスレ,W.W. Grainger(卸売)
  • 社会的責任:Statoil(ノルウェーの石油・ガス会社),Ferrovial(スペインの建設会社),ウォルト・ディズニー
  • 経営の質:マグドナルド,エクソン・モービル,W.W. Grainger(3位),ウォルト・ディズニー(3位)
  • 財務の健全性:Google,アップル,マグドナルド
  • 長期的投資:Google,マグドナルド,Occidental Petroleum
  • 製品・サービスの品質:Amazon.com,Google,ノードストロム
  • グローバル競争力:マグドナルド,Google,ネスレ


注3:
「グローバル500」は詳しくはフォーチュン誌,2010年7月26日号を参照.Web版は下記URLを参照されたい.

http://money.cnn.com/magazines/fortune/global500/2010/index.html



(先月の提言はこちら.これまでの提言はこちらをご覧ください)



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