今月の提言


2月の提言『わくわくした経営を行う会社とは』



先日、主著『競争の戦略』で著名なハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授が、日本企業には“わくわく”する経営が欠けていると述べたという“わくわく”論が話題になっていた。つまり、ポーター教授は次のようにいう(注1)。

「日本企業は大丈夫なのかと、世界では不安や懸念の声が上がっている。日本企業でも独自の戦略を核に、高い収益を上げている優良企業は少なくない。だが、日本の経営には“わくわくする”ものが欠けている」

ポーター教授といえば、かつて日本企業に戦略はないと述べていた。つまり、10年ほど前までは日本企業はライバルの物まね、あるいは横並びの同質化競争が専らだった。これでは業務改善せいぜいで成熟した市場のパイを食い合うゼロサムゲームとなり、新しい価値を生み出せないというのだ。同教授は日本企業の中でも優れた企業が存在することを認めつつも、わくわくした経営がないという(注2)。

では「わくわくした経営」とは何か。筆者は「日々革新し続ける」ことだと思う。そして革新とは何かといえば、筆者は次の5つであると考える。
  1. 新たな技術を創造
  2. 新たな製品・サービスを創造
  3. 新たなマネジメント手法を創造
  4. 新たなビジネスモデルを創造
  5. 新たな市場を創造
まず、新たな技術とこれに基づく製品・サービスの創造は説明する必要はないだろう。新たなマネジメント手法の創造というのは、とてもわくわくする。たとえば、ゲーリー・ハメル氏によると、1900年から2000年までの期間で最も注目すべきマネジメント・イノベーションは次の12だという(注3)。
  1. 科学的管理法(動作・時間研究)
  2. 原価計算と差異分析
  3. 民間の研究施設(科学成果の産業利用)
  4. ROI分析と資本予算
  5. ブランド・マネジメント
  6. 大規模な案件のプロジェクト・マネジメント
  7. 事業部制
  8. リーダーシップの育成
  9. 提携やジョイント・ベンチャーなどによる企業間コラボレーション
  10. 分権化の徹底(自律性の高い組織)
  11. 戦略分析の定型化
  12. 従業員主導による問題解決
上記の12の中で日本企業が創造したといえるのは最後の「従業員主導による問題解決」ぐらいだろう。このほか、業務の効率化に関するマネジメント・ツールや手法も数多く生み出されたが、日本企業の貢献度はそれほど大きくはない。

次に、ビジネスモデルといえば、デルのBTO(Build to Order)といわれる注文生産方式を思い浮かべる人が多いだろう。ビジネスモデルの定義はまちまちだが、本稿では定義に深入りしないで、ジョアン・マグレッタ氏に従い「未知なる価値を創造するシステム」としておこう(注4)。

最後に、「新たな市場を創造」については、これまでビジネスの対象にしていなかった市場で需要を開拓することを意味する。たとえば、BOP(Base of the Pyramid)市場とは、世界の所得別人口構成の中で最も所得層を対象にした市場をいう。世界の約40億人が該当し、市場規模は約5兆ドルともいわれる新市場だ。また日本でジュニアファッション市場を開拓したナルミヤなどの例もある。

このように「わくわくした経営」を実践するには上記の5つの創造を実現することである。とすれば、日本企業は最初の2つは得意かもしれないが、あとの3つは苦手だと思う。何故か。その原因の一つは経営トップがビジョンあるいはグランデザインを描き切れていないからだと筆者は考える。

「わくわくした経営」を実践するのは別にポーター教授を喜ばせるためではない。企業にとって、こうした革新こそ永続する企業として生き残る道なのである。あなたの会社も「わくわくした経営」とは何かを熟考して、アクションを起こすことをお薦めしたい。


注1:
わくわく論に関しては小島明氏のWebコラム「ポーター教授の日本憂慮」(日本経済研究センター)を参照(下記URL).

http://www.jcer.or.jp/column/kojima/index264.html

注2:
ポーター教授の日本企業には「戦略不在」とする論文は下記を参照.

Michael E. Porter, "What is Strategy?,"Harvard Business Review, Nov-Dec, 1996(邦訳「戦略の本質」DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー, 09年3月).

注3:
注目すべきマネジメント・イノベーションに関しては下記を参照.

Gary Hamel, "The Why, What, and How of Management Innovation," Harvard Business Review, Feb, 2006(邦訳「いまこそマネジメント・イノベーションを」DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー, 06年6月).

注4:
ビジネスモデルの定義については元Harvard Business Reviewのエディターで,現経営コンサルタントのジョアン・マグレッタ氏の下記の論文を参照. Joan Magretta, "Why Business Models Matter," Harvard Business Review, May, 2002(邦訳「ビジネスモデルの正しい定義」DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー,02年8月).



(先月の提言はこちら.これまでの提言はこちらをご覧ください)



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