今月の提言


1月の提言『2011年は近未来の"GAIN(利益)"の礎を築く年に!』



今年の世界経済の伸びは減速するようだ。OECDが昨年11月に公表した経済見通しによると、主要新興国が持続的な成長を牽引しているものの米国経済の回復が予想より遅れている点が影響している。2012年は世界経済は回復に向かうものの日本経済の足取りは重いと見込まれる。こうした環境下で各企業はこの一年何をすべきか。筆者はマクロ経済の低迷という逆境下で、卯年にちなんで将来のジャンプ、飛躍のための利益(GAIN)の礎を築く年、成長戦略を再構築し実行する年にすることを提案したい。

そこで、今年のビジネス・キーワードは、上記の趣旨を踏まえて

"GAIN"

とした。なお、GAINは下記の4つの頭文字をとったものである。

Growth Strategy(成長戦略)
Area Portfolio(エリア・ポートフォリオ)
Intent for Strategy(戦略的意図)
Networking via Social Media(ソーシャルメディアの活用)

まず、企業にとって成長戦略とは何か。筆者は次の3つのBがポイントだと考える。
  1. Beyond Domain(超事業領域)
  2. Beyond Boundary(超境界)
  3. Beyond Boarder(超国境)
成長戦略にとって事業領域、ドメインは極めて重要であり、事業領域設定は戦略の次元の一つとして知られている。企業が提供している製品やサービスが成熟市場あるいは衰退市場にあるとすれば、中長期的な成長は難しい。自社の事業領域の周辺、関連分野における成長ポテンシャルを精査して事業領域を見直し、現在の事業領域を超えることが成長戦略の基本である。つまり、新しい事業の創造である。

周辺、関連分野を検討して新事業を探索する際、業界の垣根を超えた競争が始まっている点を認識すべきだ。その際、代替と補完という経済学ではお馴染みの考え方を参考にするとよい。たとえば、代替に関しては、東京電力の「オール電化」をイメージすると分かりやすい。東京電力は従来はガスの領域であった調理分野にも進出し、ガス器具に取って代わろうとしている。また、カメラ業界では、電機メーカーやフィルムメーカーがデジタル技術を使ってデジタルカメラを作り従来型カメラを代替している。補完については、銀行業界を想起したい。三菱東京UFJ銀行のATMはどんどん減少している。その代り、セブン銀行等と提携して、ATMを通常時間は無料で引き出せるようにしている。つまり、スーパーやコンビニに設置されているセブン銀行のATMは三菱東京UFJ銀行を補完しているのである。このように、代替と補完という切り口で考えることで、業界の垣根を超えた超境界思考が容易となる。

超国境については改めていうまでもないだろう。企業の成長戦略の基本は新事業を創造するとともに、新市場への進出である。国内市場が成熟化する中で、これまで進出していなかった先進諸国や新興国に進出し販路を拡大するという「超国境」発想が求められる。

次に、エリア・ポートフォリオ(経営)とは、どのエリアに注力するかという視点で事業展開を見直すことを意味する。国内、海外を問わず全てのエリアに強い企業は稀である。一度、国内と海外に分けて、エリア・ポートフォリオマップを描いてみてほしい。たとえば、縦軸にエリアの市場成長率、横軸に現状のエリア内シェア(あるいは社内売上構成比)をとってプロットする。さらに、エリアの市場成長率と市場規模を描いて魅力度をみると、今後どのエリアに注力すべきかが明らかになるだろう。超ドメスティック企業の場合は、国内の空白ゾーンや弱いエリアへの展開を強化することで成長ポテンシャルが高まる可能性はある。このように、国内のエリア市場攻略を再構築するとともに、上述した超国境発想とともに海外市場への展開を見直してはどうか。

戦略的意図は、一般には「Strategic Intent」と呼ばれている。『コア・コンピタンス経営』の著者、ハメル、プラハラッド両氏による同名の論文の初出は1989年である。筆者は成長戦略を実行するには、「戦略的意図」が不可欠だと考えている。両氏はキヤノンとコマツを例にあげて、能力を超える野心を実現しグローバル・リーダーとなるには戦略的意図が必要だと説く。そして、キヤノンの「打倒ゼロックス」、コマツの「キャタピラーを包囲せよ」などが戦略的意図を分かりやすく表現して、組織にこれを実現するための執念を植え付けたという。中長期的な成長戦略を実践していくには、こうした戦略的意図の役割と効果を再認識すべきだと考える(注1)。

最後に、ステークホルダーあるいは潜在顧客とのコミュニケーションの手段として、ソーシャルメディアを効果的に活用することを提案したい。筆者のいうソーシャルメディアとは、ツイッター(Twitter)やフェースブック(Facebook)のことをいう。米国企業の4分の3はマーケティングのためにソーシャルメディアを活用している。これは世界の人々がインターネットでの活動の中で最も時間を割くのはソーシャルメディアであることからも納得できる。コミュニケーションの手段がマスメディアからソーシャルメディアへと大きく変化している点をよく認識して、コミュニケーション戦略を再構築してほしい(注2)。

以上、今年のビジネス・キーワードについて概要を述べた。今年は未来のために成長戦略を再構築し、実践してほしい。拙稿がその際の参考となれば幸いである。


注1:
ハメル,プラハラッド両氏の論文は下記を参照.

Gary Hamel and C.K. Prahalad, "Strategic Intent," Harvard Business Review, May-June, 1989(邦訳は『ダイヤモンド・ハーバード・レビュー』08年4月号を参照).

注2:
フェイスブックは全世界に5億人のユーザー数をもつといわれる世界最大のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)である.だが,日本では140字の制限はあるにせよ,現状は英語に比べて情報量が多いこともあってツイッターの方がフェイスブックに比べて利用者が多い.





(先月の提言はこちら.これまでの提言はこちらをご覧ください)



トップ・ページへ




ご質問、お問い合わせは下記までお願いします。

© 1997-2007info@asktaka.com