2010年も残り少なくなってきた。今年一年を振り返ってみて、筆者の独断で「10大経済ニュース」をピックアップしてみた。トップは中国がGDPで世界第2位になったことだが、他は順不同である。読者の方々が思い浮かべる10大経済ニュースとの差異は如何?
世界の主要国は自国通貨を安くしようとする動きが目立ち、通貨戦争ともいわれた一年でもあった。各国政府は市場に介入し、日本も6年半ぶりに突然為替介入を行った。米国連邦準備理事会(FRB)は11月3日に量的緩和策第2弾(QE2:Quantitative Easing 2)の実施を決め、今後8ヶ月間に6000億ドルの米国債を買い入れることとなった。他の国々からは人為的なドル安くを招くとの批判も多く、今後のさらなるドル安傾向が懸念される。 一方、ギリシャの財政危機に端を発して欧州のソブリンリスク(政府債務の信認危機)が表面化し、スペイン、ポルトガル、イタリアなど南欧各国に飛び火した。そして11月頃からアイルランドの財政危機に対する不透明感も高まり、欧州ソブリンリスクによりユーロ安傾向が続く。 金価格は低迷する株式市場と対照的に高騰している。日米の追加金融緩和などで余剰マネーが古来から信用力のある金に流れる動きが加速した結果だ。09年10月に1オンス1,000ドルの大台に乗って以来、11月には約1.3倍の1,371ドルを記録(いずれも月平均)。先進諸国経済の先行き不透明感による株価の低迷を象徴している出来事だ(注2)。 TPPは「環太平洋戦略的経済連携協定(Trans Pacific Partnership)」の略称である。当初はシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4カ国が参加する自由貿易協定で、2006年5月に発効。その後、米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアが参加を表明し、新たな枠組みづくりに向けて9ヶ国で交渉中だ。09年の米国の参加表明によってTPPに対する関心が高まり、日本も参加を検討するなど参加国の増加が見込まれる。TPPはモノやサービスの貿易自由化のみならず、政府調達、貿易円滑化、競争政策などの幅広い分野を対象とする自由化レベルが高い包括的な協定である。物品に対する関税は例外を設けず10年以内にほぼ100%撤廃するのが原則だ。日本では経済団体を中心に参加を支持しているが、関税撤廃による影響を懸念して農協や漁協などが反対しているため日本の参加が実現するかどうかは不確定だ。 今年のFIFAワールドカップは南米の南アフリカ共和国で行われた。治安問題など開催前は不安材料があったが、成功裏に終わった。周知のように、ワールドカップはテレビ視聴者数でオリンピックを上回るスポーツイベントである。このイベントが今年から先進国での開催から、開発途上国、新興国での開催へとシフトした。以後、2014年はブラジル、2018年はロシアでの開催となり、2022年は中東・西アジアのカタールでの開催が決まったばかりだ。2006年のドイツを最後に最大のスポーツイベントの開催国は非先進国へと移行したのである。先進諸国の凋落と新興国の台頭を象徴しているように思える。 最後に、筆者は日米の企業のニュースに注目したい。米アップル社はiPodに続きiPhoneやiPadなど相次いでヒット商品を上市している。iPodはMacintosh専用のデジタルオーディオプレーヤーとして2001年10月23日に発表されたが、2002年発売の第2世代iPodでWindowsにも対応して以来飛躍的な成長を遂げた。2002年の売上高57億ドルに対して2009年は429億ドルに達し、8年間で約8倍の売上規模となった。今年の7-9月期も四半期として売上高、純利益ともに過去最高を更新し、好調さを維持している。アップル社の快進撃は、ニーズを巧みにとらえた製品開発力とインターネットという時流に乗ったことによる(注3)。 日本企業では、昨年から今年にかけてのトヨタのリコール問題に注目したい。米国議会にて公聴会が開催されるなど大事になって、一時的にトヨタのブランドイメージは打撃を受けた。しかしながら、問題の本質は、品質、技術ではなく、広報、PRなどの対外コミュニケーションにあったと思う。今後海外での展開に注力する企業がさらに増加すると思われるが、「よいモノをつくり、売る」だけでなく、現地の有力なPR会社を活用するなどして コミュニケーション力を高めることが必要だ。 以上、10大経済ニュースについて概観した。要約すると、2010年は中国をはじめとする新興国、非先進国の台頭が目立ち、先進諸国が不況脱出のために四苦八苦した一年といえよう。 では、2011年に向けての企業の課題は何か。まず、中長期的な視点で、先進諸国と新興国との経済的ポテンシャルを再考すべきだろう。市場規模の大きさと成長性の切り口から、グローバルなエリア・ポートフォリオをいかに構築するかが課題である。次に、モノでもサービスでも真にニーズに適ったモノは不況期でも売れるということを肝に銘じたい。アップル社の例は上述したが、たとえば三洋電機のお米からパンを作ることの出来る「GOPAN(ゴパン)」は11月11日に発売以来後好評で予約が殺到、12月1日には予約を中止した。ユニークで潜在的ニーズが高いモノ・サービスの開発が課題なのである。さらに、CSR(企業の社会的責任)を有効に実践するにはステークホルダーに対して、日頃適切なコミュニケーションをとることが肝要だ。日本企業は広報、PRを含めて相対的にコミュニケーション下手なように思う。来年は是非この点を再考してほしい(注4)。 2011年も景気回復の足取りは重そうだ。筆者は各企業が不況下で日夜賢明な努力を重ねていることを知っている。しかしながら、足元から目線をあげて上記の課題を一考されることを願うものである。そうすることで近未来の希望がみえてくることをお祈りしたい。 注1: 以下,ネット上の情報及び内外の新聞・雑誌情報に基づく. 注2: 金価格データは田中貴金属工業株式会社のホームページによる. 注3: 2010年10月19日付の朝日新聞Web版「アップル過去最高益 iPhone売上高の4割稼ぐ」. http://www.asahi.com/business/update/1019/TKY201010190437.html 注4: 2010年11月25日付の毎日新聞Web版「三洋電機:ゴパン、予約受け付け中止 注文パンパン、生産追いつかず−来年4月再開」. http://mainichi.jp/kansai/news/20101125ddn008020049000c.html |
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