先日ある経営トップの方と会食した際、日本企業の海外子会社の社長の話で盛り上がった。いまだに海外法人のトップは日本人が多いのだが、これが海外での業績に影響しているという。実は、この点は80年代から吉原英樹氏が指摘していた日本企業のグローバル経営の課題の一つでもあった(注1)。 今、外国企業の日本法人のトップの顔を思い浮かべると、ほとんどが日本人であることに気づくであろう。進出先のトップは現地から選ぶのが、グローバル経営に習熟した企業では一般的だ。もっとも現地法人のトップは本国と意思疎通できる英語力が不可欠だ。日本の現地法人のトップは日本人が多い背景には、日本企業のトップが英語でコミュニケーションできない点がある。 ところで、筆者は10年ほど前の米ビジネスウィーク誌の「Managers without Borders」という記事を思い出す。BW誌によると、ヨーロッパのエグゼクティブ達は随分様変わりしたという。ヨーロッパのビジネス社会では、急速に英語が共通語化し、欧州の大企業上位200社のうち40社はすでに外国人が最高責任者になっている(当時)。また、インシアード(Insead)やロンドン・ビジネススクール(LBS)などの欧州の有力ビジネススクールの卒業生は、半数は自国以外で働いていて、エグゼクティブ予備軍を含めて欧州のトップはボーダーレスになっているという(注2)。 10年前に欧州ではこうした状況だが、BW誌は次のようにまとめている。
こうした欧州の「超国家的」現象は、資本市場、財・サービス市場、労働市場のボーダレス化の波が予想以上に早く浸透した結果である。そして、欧州企業が米国人を含む米国流マネジメントを身につけた人達から学び、アウトサイダーが企業を改革することを学んだからだ、とBW誌は述べている。 読者の方々は欧州のこのような「超国家的」なエグゼクティブの動きをどう思われるだろうか。筆者は実は複雑な思いでこの記事を読んだ。何故ならば、経済体制論でいう経路依存性の存在が、欧州において予想以上に早く消失しつつあるように見えるからだ。アメリカン資本主義のみならず欧州や日本など様々なタイプの資本主義が存在するという一つの根拠は、この経路依存性にある。だが、欧州においては市場の圧力が経路依存性を押しのけたように思える。 日本において上述した「欧州現象」は押し寄せるのであろうか。確かに、日本企業の中にも日産やソニーのように外国人トップが活躍している企業もある。だが、欧州のようなトップのボーダーレス化にまで進展するかどうかは疑問である。日本のビジネス社会で英語が共通言語化するのは簡単ではないし、エグゼクティブのジョブ・マーケットも流動性に欠けるからである。 しかしながら、日本企業が真にグローバル企業に進化するには「欧州現象」を避けて通れるかどうかはともかく、英語の問題が課題として残る。楽天やユニクロ、そしてシャープの社内英語化は、日本企業がグローバル経営を目指す上で野心的な試みである。だが、筆者は大事なのはトップの英語力だと思う。従業員の英語のレベルを向上させることも重要だが、最優先されるべきはトップである。英語が話せるだけでは話にならないが、「英語も出来る」のがこれからのトップのあるべき姿だと思う(注3)。 さて、皆さんの会社のトップは「英語も出来る」方ですか。であれば、海外現法のトップが外国人であっても問題はない。もし、英語が苦手であれば、あくまでも超ドメスティック企業にとどまるのでない限り、後継社長は「英語も出来る」人を選ぶべきである。 注1: 日本企業の海外子会社の現状や経営幹部の現地化の遅れに関しては,南山大学教授吉原英樹氏による次の論文を参照. 「海外子会社の現地人社長」,『経済経営研究年報』(第43号pp.11-40,神戸大学経済経営研究所,1994年3月) 「海外子会社の自主経営と現地人パワー」,『組織科学』(第23巻第2号pp.10-18,白桃書房,1989年11月) 注2: BusinessWeek誌(2000年11/20号)の特集"Managers without Borders"による. 注3: 社内英語化に関しては,塩野七生氏による痛烈な批判がある.この点に関して、筆者はツイッターで次のように発言している. 「文芸春秋11月号の巻頭エッセイの中で,塩野七生氏が楽天とユニクロの社内英語化を『最近笑えた話』として書いている.外国語漬けの日本人の精神状態と,外国語で想像力が発揮できるかという点を危惧したものだ.半世紀に及ぶイタリア暮らしの塩野さんのエッセイを両社の社長は読んでいるのか?」(Twitterの原文は下記URLを参照) http://twitter.com/asktaka/status/29167047640 |
ご質問、お問い合わせは下記までお願いします。
© 1997-2007info@asktaka.com