今月の提言


10月の提言:『内需型企業の活路は?』



内需型産業に属する企業の海外進出が目につき始めて数年になる。主な内需型産業は食品、薬品、建材・住宅設備などの製造業をはじめ、小売業、サービス業などだが、これまで国内市場を主要ターゲットにしていた企業が、市場の成熟化及び縮小傾向を背景に海外市場に目を向けるのは当然ともいえる。ただ、内需型企業のとるべきオプションは、海外市場への展開ばかりではない。

筆者は、自社のドメイン(事業領域)に関わる市場が成熟、衰退している場合、次の4つの戦略オプションがあると思う。
  1. 多角化の推進
  2. シェア拡大
  3. 国内市場のエリアカバレッジ拡大
  4. 海外市場への展開
主力事業が成熟化した場合、多くの企業は多角化を考えるであろう。ただ多角化の成功例はそれほど多くない。筆者が想起する代表的な成功例は、米国ではGE、日本ではキヤノンである。GEは電機メーカーから金融その他に多角化して、製造業のサービス化の成功事例でも知られる。キヤノンは周知の通りカメラから事務機への多角化で成功した。その他、ネットや通信事業を中心に多角化したソフトバンク、花札からテレビゲームへ展開した任天堂、居酒屋から介護や農業に多角化したワタミなども成功例といえよう(注1)。

一方失敗例は多いが、ここでは東京ドーム、有線放送事業から多角化したUSENを取り上げよう。東京ドームは金融、不動産事業への多角化の失敗により、2007年1月期の連結最終損益が約867億円の赤字を計上し、金融からは撤退して、大半のリゾート施設を売却した。USENは積極的なM&Aにより多角化を進めてきたが経営不振に陥り、人材派遣のインテリジェンスや、インターネット接続事業「GyaO 光」などを売却。現在、本業の有線放送事業に経営資源を集中し、経営再建中である。多角化が失敗するのは多くは、本業との関連がない分野に進出するケースである。

多角化をするには、本業周辺か関連する分野で、M&Aを効果的に活用するのが王道だ。この場合、持株会社を作って事業会社をぶらさげる形が望ましい。持株会社の役割は企業戦略の立案とその推進で、事業ポートフォリオを考えて実行すること、この多角化が主要な業務となる。

次に、市場が成熟化あるいは縮小する中で、シェアを拡大するのは至難の業だ。筆者のこれまでの経験や観察からいえることは、このような場合シェア上位の企業の方が有利だ。なぜならば、高シェア企業のブランド力や販売網の相対的優位がさらなる好結果を生むものと考えられるからだ。それゆえ、トップシェアの会社であれば、ライバルに対して物量作戦でシェアが拡大する可能性は高い。だが、2番手以下であれば、水平型M&Aを視野に入れて、同業者の買収を検討すべきである。

小売業や一部のサービス業に関しては、全国に展開していなければ、空白ゾーンへ展開し、エリアカバレッジを高めることで企業規模を拡大できる。小売チェーンや外食産業は、自力での展開とともに、未展開エリアで一定のブランド力がある企業をM&Aすることが多い。他方、ナショナルブランドのメーカーの場合、一般にはエリアごとにシェアの強弱がある。 エリアに注目してシェアの高いエリアは更に向上させ、低いエリアはてこ入れすることで売上を拡大することが可能だ。

最後に、国内市場の縮小を背景に海外市場への展開を狙うケースは多い。例えば、コンビニエンスストアのファミリーマートの店舗数はすでに海外店が過半数を超えた。また、ユニクロを展開するファーストリテイリングや無印良品の良品計画なども海外出店に意欲的だ。このように、これまで超ドメスティックといわれていた小売業も海外展開注力しているのである。加えて、最近の円高の下で、海外企業に対するM&Aが活発化する動きがある。ただ、自力で海外市場を開拓するにせよ、海外企業をM&Aするにせよ、これまで海外での展開ノウハウの少ない企業は、最初から過大な期待は禁物である。現在、海外展開中の企業も多くは過去に多大な月謝を払っていることを忘れるべきではない(注2)(注3)。

上述した通り、内需型企業の戦略オプションは4つある。筆者は、国内市場の成熟化、縮小に対応して海外市場への展開を図ることには大賛成である。しかし、その前に、今一度その他のオプションによって活路を見い出すことができるかどうかを検討してほしい。海外市場への展開は選択肢の一つであって、決して唯一の道ではないのである。


注1:
主に各種公開情報を参考にした.

注2:
例えば,円高を追い風にしたM&Aの例として,2010年8月19日付「日本電産、M&A加速『もう1社買う』:30社目は米大型モーター 」(via SankeiBiz)を参照(下記URL). http://www.sankeibiz.jp/business/news/100819/bsc1008190841016-n1.htm

注3:
最近の内需型企業の海外企業のM&A事例は下記の『2010年版ジェトロ世界貿易投資報告』の「内需型産業で海外シフトが加速」(p.19)を参照.

「内需型産業で海外シフトが加速」



(先月の提言はこちら.これまでの提言はこちらをご覧ください)



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