2005年まで毎年8月の提言は夏季休暇向けのお薦め書籍の紹介であった。先日お目にかかった経営トップの方に、夏休みに読むべき本を推薦してほしいといわれ、今月は何冊かの書籍をピックアップして紹介することにした。
世界経済は08年9月のリーマンショック以降大きく変化している。1980年代から続いた新自由主義の時代、市場メカニズムを重視する考え方は後退し、政府の役割を重視するケインズが復権したようにも思える。こうした資本主義の混迷の中で、時代を超えてシュンペーターの次の著書は私たちの行動に示唆を与えてくれる。
- 『経済発展の理論 上・下』(岩波文庫)
- 『資本主義・社会主義・民主主義』(東洋経済新報社)
シュンペーターは資本主義は企業家(あるいは起業家)のイノベーションによって発展すると説く。イノベーションとは、経済活動において旧方式を脱却して新方式を導入することを意味する。イノベーション=技術革新だとするのは正しくなく、もっと広く次の5つのパターンがある。
- 新しい財貨の生産
- 新しい生産方法の導入
- 新しい販売先の開拓
- 新しい仕入先の獲得
- 新しい組織の実現
生産要素を新たに組み合わせて結合させる(新結合)など新しい方式を用いて新たなビジネスを創造する、こうしたイノベーションの推進者を企業家あるいは起業家(entrepreneur)と呼ぶのである。シュンペーターの著書は、私たちの国が大きな政府になっても、また市場メカニズムを重視した小さな政府になっても、資本主義発展の鍵を握るのは企業家によるイノベーションであることを思い出させてくれる(注1)。
次に、マネジメントの古典とも言うべきドラッカーの次の著書をお薦めしたい。企業家の役割の重要性は分かったが、ではいかにマネジメントしていくか、こうした基本を問い直すには最適だ。ちなみに、この2冊は『経営者の条件』とともにドラッカー経営書の3大古典といわれている。
- 『現代の経営 上・下』(ダイヤモンド社)
- 『創造する経営者』(ダイヤモンド社)
『現代の経営』(The Practice of Management)のエッセンスは、「事業の目的は顧客の創造にあり、そのための企業家機能はマーケティングとイノベーションである」という点にある。筆者はこのドラッカーの言葉を何度読んでも新鮮に感じる。そして、イノベーションに加えてマーケティングの大事さを再認識するのである。
『創造する経営者』の中でドラッカーは、企業にとって本業の仕事は3種類あると述べている。すなわち、次の3つである。
- 今日の事業の業績をあげる
- 潜在的な機会を発見し実現する
- 明日のために新しい事業を開拓する
現実をみると、経営トップは「今日の事業の業績」をあげることに四苦八苦している。しかしながら、筆者は真のトップの仕事は「顧客の創造」であり、新しい事業の開拓にあると思う。ドラッカーの本は私たちにマネジメントの原点とは何かを教えてくれる。
最後に、では実際にどのように新事業や新たなビジネスモデルを創造していくか、という視点から下記の書籍をお薦めしたい。
今、多くの成熟市場で業界の垣根を越えて競争が行われている。たとえば、銀行対流通、家電対光学機器、電気対ガス、広告対出版等々である。著者の内田氏は、「業界という枠組みを超えた戦い“異業種格闘技”を制するには、ビジネスのルールを変えろ」と主張する。閉塞感のある成熟市場で次代のビジネスモデルを創造しようと模索している企業の方々は、本書からヒントを得られるかもしれない。少なくても、周辺業種を含む異業種との「事業連鎖」の可能性を検討するだけでも有益であると思われる。
この夏は上記の5冊をひもといて新たなビジネスモデルの構築やイノベーションの参考としてほしい。
注1:
『経済発展の理論』では「新結合」、『資本主義・社会主義・民主主義』では「創造的破壊」が中心概念である。
注2:
著者の内田和成氏はボストンコンサルティンググループ(BCG)の日本代表をへて、現在は早稲田大学ビジネススクールにて教鞭をとっている。
(先月の提言はこちら.これまでの提言はこちらをご覧ください)
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