日本のサービス産業の生産性は欧米に比べて、あるいは製造業に比べて低いと言われてきた。確かに、欧米と比較すると日本のサービス産業の生産性は低い。しかし、製造業と比べて本当に低いのだろうか。実は、最近の研究によると、サービス産業の生産性は製造業に比べて必ずしも低くないのである(注1)。 一口にサービス産業といっても周知の通り間口は広い。電気・ガス等の公益事業から、卸売・小売、運輸、情報通信、飲食、生活関連サービス、娯楽、事業所向けサービスなど幅広い。ここではサービス産業という場合は第3次産業全体、広義のサービス産業を意味し、サービス業という場合は飲食から個人向けや事業所向けサービスなど狭い意味で用いる。経済産業研究所(RIETI)の森川正之氏の論文によると主な分析結果は次の通り(注2)。
ソフトウエア業、情報処理サービス業、インターネット付随サービス業、映画・ビデオ制作業、新聞業、印刷業、一般飲食業、フィットネスクラブ・カルチャーセンター、デザイン業、エンジニアリング業、冠婚葬祭業、事務用機械器具賃貸業、自動車賃貸業、スポーツ・娯楽用品賃貸業、その他物品賃貸業、広告業、ディスプレイ業 なお、労働生産性は資本装備率と全要素生産性(TFP)によって決まる。ただ資本装備率は約3分の1しか説明できず、残りの3分の2はTFPにより決定される。TFPは技術進歩を示すといわれていたが、最近では人的資本の質、研究開発投資や無形資産投資、制度環境・文化がTFPに影響を与える要因として注目されている。サービス業はこうしたTFPが製造業を上回っているケースが多いのだ(注3)。 分析結果から筆者が注目するのは、労働生産性及びTFPの企業間格差が大きいという点だ。筆者はかつて海外のビジネスパースンに、日本の製造業は日々現場での「カイゼン」を行っているが、サービス産業はそうしたカイゼンが実行されていないのではないか、といわれたことがある。生産性の企業間のバラツキはこの点と関連していると思われる(注4)。 とすれば、サービス業が「カイゼン」を実践することで生産性の低い企業のレベルが向上すれば、企業間格差は減少し全体の生産性も向上する。問題はいかにカイゼンを実行するかである。それにはまず経営トップが、マネジメントのツールとしてカイゼンの効用を認識することが先決だ。そして、従業員参加のカイゼンを実施していない企業は、まず手のつけやすい部門から着手することをお勧めしたい。 注1: 欧米との比較に関しては下記の報告書の第1章を参照. 産業構造審議会新成長政策部会・サービス政策部会サービス合同小委員会中間報告書「攻めのサービス産業に向けて」(2008年6月) http://www.meti.go.jp/report/data/g80619aj.html 注2: 森川正之「サービス産業の生産性は低いのか?〜企業データによる分析」(2007年12月)(下記URL)を参照した. http://www.rieti.go.jp/jp/papers/journal/0804/rr01.html サービス産業とサービス業の大まかな定義も上記論文の脚注1(p.2)に従った.日本の統計上の産業分類では大分類20項目のうちFからSまでの14が第3次産業,広義のサービス業となる.論文は経済産業省のデータを使っているため,医療・福祉,教育などの所管以外の産業は除外されている. 注3: TFPの影響要因,資本装備率やTFPの説明力に関しては,池尾和人「成長戦略と労働生産性」(下記URL)を参照のこと. http://agora-web.jp/archives/804866.html 注4: カイゼンに関する同様な趣旨は,社団法人経済同友会による「サービス産業の生産性を高める3つの改革」(2009年4月)の中でも指摘されている(p.5). http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2008/090409a.html |
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