今年に入ってビジネスに関するビッグ・ニュースは、キリン・サントリーの経営統合破談とトヨタのリコール問題であろう。前者は共通の統合目的を持ちながら危機感を共有化できなかった点が破談の背景にある。後者は対応が後手に回った点が問題を大きくしたと思われる。この2つのケースは、一見共通点がないように見えるが、実はそうではない。両方とも企業価値向上に対する認識が希薄であった点で共通していると思われる。 まず、キリン・サントリーの経営統合破談に関しては、両社の社長は「縮み続ける国内市場に大手がひしめくような余裕はもはやない。多角化、国際化を進めなければ生き残れない」という共通認識があった。そのうえで、国内市場の足場を固めてグローバル市場へ展開を加速するという明確な戦略的意図があったのである。にもかかわらず、文化の違いや統合比率に関する両社の思惑の相違など企業内部の問題に起因して破談となった。 今回の破談は、トップ同士の危機感を双方あるいは一方の社内に浸透しきれなかった点に問題があったと思う。そして、サントリーの大株主である一族を説得できるであろうと踏んだ、両社のトップの見通しの甘さは否定できない。この意味で、トップの判断、経営の判断が破談の原因といえる。しかし、真の原因は、両社に企業価値を向上を第一義に考えるという文化が根付いていなかった点にあると考える。サントリーは非上場で創業家一族が経営する家業であるとはいえ、株主のみならず従業員などのステークホルダー全体の利益に寄与する選択を行うのが企業の社会的責任ではないか(注1)。 次に、トヨタのリコール問題は、2007年に発覚したフロアマットの不具合と2008年に発覚したアクセルペダルの欠陥に対する対応の遅れが問題になっている。昨年の秋以降の主な動きを日経新聞からピックアップすると下記のとおりである(注2)。
ところで、日本企業においても企業統治のあり方が問われ、制度上の整備が進んできた。企業統治とは、企業価値を増大させるための企業組織をいかに構築するかということである。とすれば、両ケースは企業統治の問題でもある。この意味では、日本の代表的な企業が、実は企業統治という観点からは甚だお粗末だということを露呈したともいえる。 この機会に経営トップは企業価値向上のために何を行うべきか、また企業統治について再考してほしい。それは企業が社会的責任を果たす第一歩であると考えるからだ。 注1: 2009年8月の提言「キリンとサントリーの経営統合から何を学ぶか」及び筆者の個人ブログに執筆した「キリンとサントリーの経営統合破談に思う」(2010年2月14日)を参照(下記のURL). http://www.csconsult.co.jp/teigen/0908.html http://blog.livedoor.jp/asktaka/archives/51338657.html 注2: 2010年2月10日付けウォール・ストリート・ジャーナル日本版「【現地記者に聞く】トヨタ・リコール危機の背景を読む」を参照. http://jp.wsj.com/Business-Companies/Autos/node_31639 注3: 2010年2月21日付け読売新聞オンライン「米議会のトヨタ公聴会、『リコール遅れ』に重点」を参照. http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20100221-OYT1T00136.htm 注4: BusinessWeek誌のD. Diermeier教授による下記の記事による. "The Toyota Recall: Understanding the Real Problem,"(February 9, 2010). http://www.businessweek.com/managing/content/feb2010/ca2010029_503075.htm |
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