今年の年末は特に街角に活気が感じられないように思う。そして、街行く人々の顔つきも明るさが乏しくなったと感じるのは気のせいだろうか。それもそのはずで、昨年9月のリーマンショックの影響で世界同時不況が進行し、日本経済は2008年度に続き2009年度もマイナス成長となる。しかも、来年度以降の経済見通しはというと必ずしも楽観的ではない。 2010年度の日本経済の実質GDPの伸びはプラス1%台前半と予測する機関が多いようだ。だが、政策効果を加味して回復基調を予測しているものの、デフレ傾向は改善されず、本格回復にはほど遠い。米国経済は、来年後半以降に消費や設備投資主導による持続的な成長軌道に復帰する見通しで、欧州経済の来年の景気回復テンポも設備・雇用の余剰、過剰債務の調整圧力などで、穏やかなものになると予測されている。お隣の中国だけがいち早く景気回復したものの今度は資産バブルが懸念されている。 こうした企業の取り巻く環境下で、ボーナスカット、残業カットは当たり前の上に、派遣社員削減、リストラで仕事量は増加する現状では、社員の顔つきが明るくなるはずもない。では、社員を活き活きさせて、そして会社を活き活きさせるにはどうするか。筆者は会社のビジョンを掲げて、会社を変身させる方向を示し、これを実践することだと考える。 ところで、現状は平時ではなく、いわば戦時であり降りかかる火の粉を払い、危機に対応すべき時期である。それゆえ会社を活性化させるリーダー像は平時とは異なるものとなろう。戦略論の原点ともいえるクラウゼヴィッツの戦争論に従えば、複雑で不確実性の高い環境下で、最適な戦略を的確に見抜く能力をもつ戦略眼のあるリーダーが求められる。つまり、戦略の代替案を論理的に考えることができる能力と勇気および決断力を兼ね備えたリーダーが必要なのである。 さらに、クラウゼヴィッツによると、戦争計画の全体の指針として役立つ基本原則は次の2つである。
現状を危機下にある戦時と考えれば、「不確実性の高い環境下で、最適な戦略を的確に見抜く能力」、つまりビジョンを描くことが出来て、上記の基本原則に則って果敢に実行できるリーダーが不可欠なのである。まずは、活き活きとした会社に変身させるには危機対応力に優れたトップを選ぶことが肝要である。人材が豊富な会社であれば、社内に少なからずそうした人物が存在するはずだ。もし社内に見当たらなければ、社外から適任者を招聘するとよい。 たとえば、木質系ハウスメーカー中堅のエス・バイ・エルは12月22日の臨時株主総会において積水ハウス出身の荒川俊治氏を社長に選任した。銀行を除けば外部からの社長招聘は初めてで、かつライバル他社の役員出身の社長就任で住宅業界の注目を集めている。同社は経営再建中とはいえ、赤字支社を立て直した経験のある荒川氏という危機下の戦時におけるリーダーを選んだといえる(注1)。 リーダーが変わり、会社が変身する気配が見えれば、社員は徐々に活気を取り戻すであろう。しかし、これにはビジョンを共有化して、実践していくアプローチが必要である。つまり、筆者は「共有化」を次の4つのレベルに分けて考えることにしている(注2)。
筆者は「勇将の下に弱卒なし」は、けだし名言であると実感している。現経営トップにとって会社を活き活きさせるための第一歩は、上述した条件に適ったリーダーを選定することである。次の役員改選期に向けて、まずは危機下のリーダーを選んでほしい(注3)。 注1: 荒川俊治氏は30年以上積水ハウスで主に営業畑を歩み取締役常務執行役員を退任後,グループ会社の積和不動産関西の常務取締役を経て今年9月にエス・バイ・エルの執行役員副社長に就任.詳しくは東洋経済の下記のURLを参照(こちら). 注2: 共有化については拙稿『なぜ価値観が共有化できないのか?』(2004年7月の提言)を参照のこと(下記URL). http://www.csconsult.co.jp/teigen/0407.html 注3: トップの進退は自ら決めるべきであるが,これはなかなか難しくコーポレート・ガバナンスの強化が求めらられる所以である.この点については別の機会に論じたい. |
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