民主党政権が誕生して内需主導、内需拡大の声が一層大きくなったようだ。実際、鳩山首相は、9月25日に米国のピッツバーグで会見を行い、「子ども手当の創設やガソリン税の暫定税率廃止などを通じて個人消費を刺激し、日本経済をこれまでの外需依存から内需主導に転換する」と宣言した(注1)。 しかしながら、筆者は、企業が内需主導、内需拡大の掛け声に幻惑されるべきでないと考える。あえていえば、企業は内需主導、内需拡大の幻想から自由になるべきである。まず、子ども手当や高校無償化などの財源は税金か国債である。決して消費のパイが増えたことにはならず、単なる所得再分配である。次に、民主党のいう内需拡大が旧態依然とした「公共投資の拡大」に過ぎないことを認識すべきである。これでは1986年の前川レポートの提言の一つである内需拡大策と大差はない(注2)。 そもそも内需とは何か。簡単にいえば、国内需要を示し、民間最終消費支出、民間住宅投資及び民間設備投資、民間在庫品増加の民間需要、そして政府最終消費支出、公的固定資本形成、公的在庫品増加の公的需要の合計である。ここで「公的固定資本形成」は公共投資とほぼ同義であり、これまでの景気対策の主要手段であった。公共投資依存型では建設土木偏重で産業構造にゆがみが生じる上に、90年代以降公共投資の乗数効果が低下している。 そこで、民間の消費や民間の住宅及び投資の市場をみると、少子高齢化により市場は縮小すると予測されている。さらに、耐久消費財の普及率が高まりモノに対する需要そのものが減退傾向にある。中国などの発展途上国で内需拡大策が有効なのは、まだ耐久消費財の普及率が低くモノの潜在需要が多いことに留意すべきだ。GDP(国内総生産)は内需と外需(輸出―輸入)の合計なので、内需の市場が低迷していれば外需の拡大なくしてGDPの伸びは期待できないのである。 ところで、内需とりわけ国内消費を増加させるには、企業にとって消費者のニーズを的確に捉えて需要を喚起する新製品・新サービス、新事業の開発を強化するしかない。そして産業政策面では産業構造を従来型から高付加価値型へ転換させることが求められる。つまり、ヒト、モノといった生産要素を、予算、税制などの手段を駆使してバイオ、エレクトロニクス、新素材、環境、エネルギー等の成長分野へシフトさせることを意味する。だが、イノベイティブな新製品・新サービス開発も成長分野へのシフトも多くの企業にとって永年の課題ではあるが、成功している企業は多くはない。内需拡大策が一定の効果をもたらすにしても、企業の未来を考えるには縮小する国内市場を直視すべきである(注3)。 上述した観点から、筆者は、内需拡大の幻想を超えて「伸びない市場で稼ぐ」戦略やグローバルな成長市場への展開をさらに推進すべきであると考える。では、伸びない市場で稼ぐにはどうするか。スライウォツキー&ワイズによると、次の7項目のリストを提示している(注4)。
次に、先月の提言で述べたキリンビールとサントリーの経営統合の話を想起してほしい。経営統合の目的は、縮小する国内市場からグローバルに展開するための規模の拡大にある。これまで内需型産業といわれてきた、小売、外食、食品・飲料、医薬品、建設・不動産なども有力企業は海外市場への展開に拍車をかけつつある。これは内需拡大の幻想からいち早く目覚めた企業であり、現実のマーケットを熟知している企業といえる。内需型企業も「内需」の限界を再認識して、グローバルな成長市場をターゲットにした戦略へと転換すべき時である。 さて、あなたの会社は「伸びない市場」でどのような手を打つか、そして海外成長市場への展開をどう進めていくか。内需主導、内需拡大の幻想を超えて、戦略の転換を考えてほしい。 注1: 9月26日付けのロイターの記事などを参照した. http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-11663820090926 注2: 1前川レポート(下記のURLを参照)の「内需拡大」策は@住宅対策と都市再開発A減税や労働時間短縮による消費拡大B地方における社会資本整備である.Aを除いて公共投資に依存した内需拡大策であることがわかる. http://www.komazawa-u.ac.jp/~kobamasa/lecture/japaneco/maekawarep.htm 注3: 産業構造を従来型から高付加価値型へ転換させる政策は,みんなの党の「マニフェスト2009」でいう成長戦略に他ならない. http://www.your-party.jp/policy/ 注4: 詳しくは下記の書籍を参照. エイドリアン・スライウォツキー&リチャード・ワイズ(佐藤徳之監訳、中川治子訳)『伸びない市場で稼ぐ!成熟市場の2ケタ成長戦略』(日本経済新聞社, 2004). |
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