最近「勝ち組」同士の経営統合や提携が話題になっている。飲料大手のキリンビールとサントリーが経営統合に向けて準備に入り、コンビニ大手のローソンとドラッグストアのマツモトキヨシは業務提携を行うことで合意した。いずれも少子高齢化による市場の縮小、不況による消費の低迷などが背景にある。今回はキリンとサントリーの経営統合の持つ意味と学ぶべき点を考えてみたい(注1)。 まず、キリンビールとサントリーが経営統合を目指すのは、両社の社長の「縮み続ける国内市場に大手がひしめくような余裕はもはやない。多角化、国際化を進めなければ生き残れない」という共通認識があった。実際、ビール系市場をみると、ピークの1994年に比べて生産量ベースで16%減となっている。発泡酒やいわゆる第三のビールといわれる新ジャンルなどの低価格が売りのビール系飲料を市場に投入しても、市場縮小に歯止めがかからないのである(注2)。 両社は国内食品メーカーの1位と2位を占め、キリンの売上は2兆3,000億円、サントリーは1兆5,000億円である。両社の売上高を合算すると3兆8,000億円に達し、世界の食品メーカーの売上ランキングでは5位となる。つまり、両社が統合した場合、世界トップのネスレ、2位のユニリーバに次いで、世界3位が視野に入ることになる(注3)。 キリン、サントリーは日本市場においては強みを発揮しているが、世界市場でのシェアは低い。たとえば、世界のビール販売量のトップ20の中で、キリンは11位、サントリーは20位に過ぎない。キリンとサントリーの販売量を合計すると8位に浮上するが、それでもトップのアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)との差は大きく販売量は約8分の1にとどまる。国内ビールメーカーも携帯電話と同様にカラパゴス化現象が進んでいるとみることもできる(注4)。 両社のトップが経営統合にこだわるのは、前述したとおり海外大手との世界市場での戦いをにらんでいるからだ。国内市場が縮小する中で、戦略の転換をできない企業が多い。戦略的な効果が期待できるのは、弱者救済型の経営統合あるいはM&Aではない。互いに強みをもつ「勝ち組」同士の経営統合が、今後のグローバル市場への展開を加速し世界の勝者となることを期待したい。 ところで、これまでの経営統合あるいはM&Aをみると必ずしも成功しているとは限らないし、結局破談になったケースも多い。たとえば、主な破談のケースは次の通りである(一部は提携完了)(注5)。
このようにみると、経営統合等が破談になったケースは、統合比率を巡る主導権争いや企業文化の違いなどの企業内部の問題が多いことがわかる。また合理性の欠如は、合意前のチェックが不十分で、かつ事前に戦略的に考えられた統合やM&Aでなかったことによる。 さて、今回のキリンとサントリーの経営統合を考えると、もっとも破談の原因になりそうなのは1の企業内部の問題である。キリンは上場企業であるし三菱系の関東色の強い企業である。一方サントリーは、非上場企業で関西出身の企業だ。企業文化の違いや株価の評価、統合比率でもめそうな気配を感じるのは筆者だけではないだろう。しかしながら、筆者の結論は、この経営統合は実現すると考える。理由はトップ同士が経営環境に対する危機感を共有し、経営統合の戦略的意図も同様だからだ。加えて、キリンの加藤社長とサントリーの佐治社長は学部は違うものの大学の同期である。お互いに気心が知れている点はプラスに働くだろう。 これから経営統合、M&Aを考える企業のトップはキリンとサントリーのケースから学ぶ点は多い。つまり、次の3点である。
注1: 日本経済新聞等を参考にした. 注2: 詳しくは下記を参照. 「キリン・サントリー経営統合:食品大再編時代に突入!(上)(下)」(2009年7月21日&22日付け、DIAMOND Online, Close-Up Enterpriseより). 注3: 世界のトップはネスレ(スイス)で売上高9兆3,600億円,2位はユニリーバ(英国・オランダ)で5兆2,200億円,3位はペプシコ(米国)で4兆円,4位はクラフト・フーズ(米国)で3兆9,000億円の順である. 注4: ガラパゴス化現象について詳しくは,2008年10月の提言『日本企業のグローバル化を阻害する真の要因は』を参照. 注5: 破談のケースに関してはインターネット上に公開されている新聞・雑誌その他の情報を参考にした. |
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