今月の提言


7月の提言:『社長の任期はなぜ10年以上必要か』



今年度の新社長をみると、「若さより経験」を重視した人事が多かった。新社長の約4割は60代で、抜てき人事が減って重厚な布陣といえなくもない。多くは会長から社長への復帰や子会社経営のベテランの本社復帰など、世界不況の難局を乗り切るための手堅さを求めた人事といえよう。一方、トヨタのように創業家一族への大政奉還により求心力を高めて危機に対処しようとする企業もある(注1)。

こうした社長人事をみて、筆者はいくら難局対応とはいえ時間の流れに逆らう感を否めない。というのは、最近の研究から明らかなように、社長の在任期間と業績の間には正の相関関係がある。社長が10年以上長期間在任した企業の方が数年しか在任しない企業に比べて成長率、利益率が高い企業群が存在するのである。つまり、社長の長任期は高業績の必要不可欠な条件といえる。とすれば、この危機を乗り切る人事にしても、あまりにも近視眼的だと言わざるをえない(注2)。

では、なぜ社長の任期は10年超の長い任期であるべきか。結論からいえば、長期的な視点から企業の成長軌道を描いて(これを企業ビジョンと呼んでもよい)、それを実現させるには10年以上はかかるからである。例えば製造業の場合、技術開発が陽の目をみて業績に貢献するには10年超の時間を要することが多い点を想起すれば分かりやすい。そして、日産の元社長・辻義文氏をはじめ多くの慧眼のトップは、改革には少なくとも10年の年月がかかることを喝破している。こうしたビジョンや改革を推進するトップが、2期や3期で交代するとすればどうなるか。結果は、政治の世界の話ではあるがことの本質は変わらない。小泉改革の結末をみれば明らかであろう。

ところで、単に任期が長ければよいというものではない。当然のことながら、長期間社長(あるいはCEO、会長)として会社に君臨していても業績がよくない会社もある。堀場雅夫氏(堀場製作所最高顧問)によると、社長には2つのタイプがあり、その一つは「自らの権力維持に終始する」タイプだそうだ。このタイプの社長がいくら長く在任しても成果は期待薄だろう。このタイプのトップに思い当たる節がある読者は、そのトップの在任期間中の業績をチェックしてみるとよいだろう。ちなみに、もう一つは創業者一族かいなか、自社株保有の多寡とは関係なく、自覚の問題として「オーナーシップをもつ」タイプである。CSRや社員の雇用維持を最重視し、会社経営を自分の生きがいとして全力投球するタイプで、堀場氏は長い目でみればこのタイプの経営者がいる会社は伸びると述べている(注3)。

では長任期の社長が高業績を達成しうるには何が必要か。筆者は次の3点が不可欠だと考える。
  1. 10年超のスパンで変革を実現する強い意志
  2. 10年超の長期ビジョンの確立
  3. 軌道修正する柔軟性
まず、最初に意志ありきである。10年超のトップ在任を前提に、目先の課題にとらわれず未来に向けて企業を変える不退転の意志を持つことが肝要である。そして、信念を持って、ぶれずに初志貫徹するのである。次に、何を変えて、会社をどのような姿、形にするのか、これを(長期)ビジョンとして明確にすべきである。最後は、「戦略は仮説である」という点を肝に銘じて、環境変化、状況変化に応じて機敏に軌道修正する柔軟性が重要である。長期政権・高業績の企業でも、軌道修正ができず撤退時期を逸したケースもある。

創業家がトップを務める企業以外は、多くは社長の任期は3期6年など比較的任期が短いのが現状だ。上述したように、企業を大きく変身させて中長期的に成長軌道に乗せるには、10年超の長期間社長を任せられる人物を選ぶべきではないだろうか。社長の長任期が前提となれば、社長の選び方も自ずと変わってくるはずだ。世界不況後の未来を見据えて、ぜび社長の任期と選び方を再考してほしい。


注1:
2009年6月9日付け「日本経済新聞」朝刊の記事を参考にした.

注2:
社長の在任期間と業績との関係について、詳しくは下記の書籍を参照.

三品和広・編著『経営は10年にして成らず』(2005年11月、東京経済新報社).

注3:
堀場雅夫「終わらない話:よい社長の見分け方」『日経ビジネス』(2009年6月29号 p.130)による.



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