今月の提言


5月の提言:『社員はなぜやる気をなくすか』



世界同時不況の影響か、最近日本企業の行動が萎縮しているようにみえる。だが、その結果社員のモチベーションが下がったのでは先行きが心配だ。「企業は人なり」であり、日本企業の伝統は時代は変わっても人本主義にある。そこで、今月はどのような企業行動やマネジメントあるいはトップの言動等が、社員のやる気をそぐかを考えてみたい。

筆者が思いつくままに、「社員のやる気をそぐ」アイテムを列挙すると下記のとおりである。
  1. トップがビジョンを示さない
  2. トップの意志が末端に伝わらない
  3. トップが趣味に走って本業がおろそかになる
  4. 会長、社長の老害が顕著な会社
  5. 能力ではなく縁故や同族かどうかで昇進する会社
  6. 飴はなくて鞭のみの経営
  7. 悪しき平等主義の経営
  8. 評価を適切にフィードバックしない会社
  9. 朝令暮改で「ぶれる経営」
  10. 現場の意見が通りにくく風通しが悪い会社
まず、トップがビジョンを示さず、またトップの意志が末端に届かないケースは意外と多い。説明責任やIRが重要視される今日、一昔前に比べれば戦略スタッフも充実し、戦略策定技術も向上している。そのため、形だけは随分整っているようにみえる。しかしながら、現状のビジョンが真に社員に夢を与え、社員の琴線に触れるものなのかどうかを自問自答してほしい。もしノーであれば、企業の将来の到達目標に夢が持てないで、社員のやる気が出るわけがないのである。トップの意志が末端まで届かないのは、ある意味で技術的な問題だが、トップ自身が価値観を共有化することの重要性を認識することが大事である。

次に、トップが趣味に走ったり、老害というのも社員の士気をそぐ。もちろん、トップがプライベートな時間に何をやろうと自由だが、今でも意外と公私混同が多い。社員はトップの言動をよくみているものだ。筆者は70代後半になっても体力は少し衰えても知力あふれる経営者を数多く知っている。それゆえ、一概にトップの年齢ゆえに老害とはいいたくない。ただ、長期政権で、かつ他の取締役との年齢差が大である場合はどうだろうか。取締役会や役員会においてスピーディで自由闊達な議論ができればよいのだが。

社員が評価や昇進問題でやる気をなくすことは多い。まだ上場企業の中にも能力よりも縁故や同族かどうかで早く昇進する、飴と鞭ならぬ鞭だけ(飴つまりインセンティブが少)という会社も存在する。そして、成果主義の行きすぎも問題があるが、業績や成果に関わらず平等なのも問題だ。さらに、納得できる評価を行い、それを個々にフィードバックしなければ、社員のモチベーションは上がらない(注2)。

「ぶれる経営」も問題である。トップや幹部のいうことが時によって変わるのでは、社員は何を信じていいのか分からない。もっともぶれてはいけないのは、会社の価値観や行動規範などの部分で、戦略や戦術は環境変化に機敏に対応して変化させるべきである。また、プロジェクト会議に出るとよく分かるのだが、役員や上司がいても事実に基づく本音が言える会社とそうでない会社がある。もちろん前者がベターだが、こうした意見が企業の意思決定に生かされなければベストではない。よくあるように会議での発言が単なるガス抜きでは、社員がやる気をなくすのは目に見えている。

さて、皆さんの会社は上記の10項目のネガティブ・リストのうち何項目に該当するか。もし、すべて該当しなければ、あなたの会社は社員のやる気と活気があふれてよい会社のはずだ。だが、複数の項目が該当すれば、この機会に企業の体質を見直すべきである。そのためには、まずビジョンの再構築から始めることをお薦めしたい。


注1:
ビジョンといっても抽象的である.そこで,筆者は企業ビジョンをビジョンを一言で表現するテーマと,例えば,中長期的な売上,利益,経営指標などの数値目標を明確化すること,そして「事業ビジョン」「運営ビジョン」「組織ビジョン」を明らかにすること,と定義している.

注2:
今どき上場企業で,能力よりも縁故・同族もないと思う向きもあるかもしれない.だが,手元に正確な数字はないが,実際創業者の子息や兄弟などが能力とはあまり関係なく早く昇進しているケースが散見する.筆者は世襲政治家問題と同様に,創業者一族が後継者になることに全面的に反対ではない.自他共に認める実力が伴っていれば、社会の公器たる企業のトップあるいは幹部として誰も文句のいいようがないだろう.



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