今月の提言


3月の提言『不況期に強い企業とは』



業績の下方修正のニュースが続く中で、今年度経常利益が最高益となる企業も存在する。今回はこうした企業の顔ぶれをみながら、不況期に強い企業像を探ってみたい。

まず、日経新聞によると、経常利益が前期に比べて二ケタ増でかつ最高益となる企業(経常利益50億円以上)が54社に達するという。そして、こうした企業の顔ぶれをみると、低価格・節約志向、独自性・新市場開拓、環境・エネルギー関連、この3つに分類される(注1)。

低価格・節約志向に関してはカジュアルウエアのユニクロを展開するファストリテイリング、内食志向に乗るファミリーマート、シューズチェーンのABCマート、居酒屋チェーンのワタミ、ファストフードのマクドナルド、家具・インテリアのニトリなどである。 なお、ニトリは09年2月期で22年連続の増収増益を達成した。

独自性や新市場開拓は、東京ディズニーリゾートのオリエンタルランド、無店舗銀行のセブン銀行、家庭用ゲームソフトのカプコン、携帯サイト運営のディ・エヌ・エーおよびグリー、後発(あるいはジェネリック)医薬品の日医工、東和薬品などである。

環境投資やエネルギー関連では、原子力発電所のプラント部材で世界シェア8割を占める日本製鋼所、廃棄物処理大手のダイセキ、電気自動車の充電用電池のGSユアサコーポレーションなど。

次に、新光総合研究所の調査結果によると、09年3月期決算企業のうち71社が過去最高益を達成した。調査は東証1部上場企業の3月期決算企業のうち過去5期以上の財務データが入手可能で、かつ時価総額が500億円以上の企業796社(金融を除く)を対象にした。つまり、約9%が過去最高益を達成したことになる(注2)。

71社の内訳をみると、輸出に依存しない内需関連企業、すなわち超ドメスティック企業で、独自性、高シェア、低価格などの特徴を持つ企業が多い(増益率上位20位までは下表を参照)。具体的には、インターネット価格比較サービスのカカクコム、うどんチェーン「丸亀製麺」を展開するトリドール、外食関連ネット情報サービスのぐるなび、オリエンタルランド、小売業ではメガネトップ、居酒屋チェーンのワタミ、カプコン(以上増益率20位内)、その他家電量販店のケーズHD、ユニ・チャームペットケア、ディ・エヌ・エーなど。

(新光総合研究所調べ.経常利益の単位は億円,億円以下は切り捨て.2月9日現在)
(新光総合研究所調べ.経常利益の単位は億円,億円以下は切り捨て.2月9日現在)

ところで、ストックボードという株式投資家向けの情報サイトの中に「3期連続経常利益10%増」企業115社ののランキングがある。上記の2つのデータとは異なり、経常利益額や時価総額の条件がないため、やや顔ぶれが異なる。しかしながら、上の2つの両方か一方にリスト入りしている企業もある。こうした企業を経常利益(括弧内の数字,単位は百万円)の多い順に列挙すると次の通り(注3)。

日本製鋼所(35,000)、ニトリ(29,500)、マクドナルド(22,000)、ケーズHD(19,000)、カプコン(14,800)、ディー・エス・エー(14,600)、ダイセキ(9,200)、日医工(6,800)、ワタミ(6,310)、ユニ・チャームペットケア(5,300)、カカクコム(3,360)、トリドール(2,200)

これまで3つの情報源に基づき、最高益達成企業あるいは連続二ケタ増益企業をみてきた。トヨタをはじめ輸出あるいは海外売上で増益基調にあった企業は、今回の世界同時不況で打撃を受けている。しかしながら、上述した通り内需型企業で差別化が明確な企業は最高益を達成している。低価格・節約志向にあった商品・サービスを提供したり、他社の追随をゆるさない独自性をもつ企業である。また、日本製鋼所、ダイセキのように外需、内需を問わず、環境・エネルギー関連市場の流れに乗った企業は強い。

以上から不況に強い企業から学ぶべき点は次の3点である。
  1. 低価格戦略で新機軸を打ち出す
  2. 独自な財・サービスを創造
  3. 環境・エネルギーなど世界共通の課題に向けた対応
この中の二つは、ポーター教授の有名な競争の基本戦略である「コスト・リーダーシップ」と「差別化」に該当する。つまり、景気の波を超えて増益を達成できるような企業は、競争戦略の基本に忠実だということになる。

不況期こそ次の好況期に飛躍するチャンスである。世界市場の景気回復に向けたプランも大事だが、ここは基本に戻り競争戦略を見直してほしい。自社で低価格戦略をとるとすればどのようにすべきか、あるいは自社の独自性を発揮できる分野はどこか、などを再考し新たなる競争戦略を構築すべきである。

次の好況期に果実を得るとともに不況に強い会社へと変身することを期待したい。


注1:
2009年2月13日付け日経新聞朝刊(3頁)の記事「2ケタ増で最高益54社」による.54社は下記の通り(同日付15頁).

丸紅、東燃ゼネ、キリンHD、ファストリテイリング、田辺三菱、協和キリン、楽天、イオンモール、ファミリーマート、OLC、日製鉄、ニトリ、日本電工、セブン銀行、ホシデン、マクドナルド、ABCマート、ケーズHD、ビックカメラ、三井鉱山、ポイント、中央電、カプコン、ディーエヌエ、ゼビオ、スカパーJ、ツルハHD、GSユアサ、PGGIH、ティーガイア、イオンディラ、ダイセキ、エフピコ、カーボン、東北新社、黒田電気、蝶理、近畿車、日医工、グリー、昭和産、ダイハツデ、ワタミ、佐世保、東和薬品、矢作建、ユニ・チャームペットケア、岡部、Bブライダル、川崎近海、大崎電気、プロト、三井松島、UT

注2:
『Fuji Sankei Business i』に公開された09年3月10日付け記事「独自性・低価格で最高益 カカクコムなど71社 09年3月期」による(原文はこちらを参照。PDFファイルは(こちら).

注3:
ストックボードに関しては畏友、田中正行氏からご教示いただいた.ここに謝意を表したい.なお、興味のある方はこちらのサイトを参照のこと.



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