今月の提言


12月の提言『未来を担う「経営者」を育成せよ!』



先日、ある経営トップと日本とアジアの経営者との比較論になって話が盛り上がった。同氏いわく、韓国や台湾の経営者と比べてどうも日本の経営者は一般に見劣りがするというのである。

結論からいうと、やや大胆だが、日本のトップと韓国、台湾などのアジアの経営者との差は「創業者」かどうかにかかわっている。日本の有力企業から創業社長が姿を消して、専門経営者というか、いわゆるサラリーマン社長が大半を占めるようになった。つまり、日本の「専門経営者」が韓国やアジアの「創業経営者」に負けているのである。

歴史を振り返れば、松下幸之助、本田宗一郎、井深大といった傑出した創業者が健在であった1980年代は、日本の創業経営者対米国の専門経営者という構図で日本企業が光っていた。今や日本はかつての米国の立場に、アジアは日本の立場に置き換わったといってよい。そして、米国では専門経営者の層の厚さとIT企業をはじめとする新興創業経営者の出現によって日本の専門経営者を凌駕している。

このように、現在は日本の専門経営者と欧米の専門経営者・新興創業経営者並びにアジアやBRICsの創業経営者の戦いの構図となって、日本の専門経営者の分が悪い。企業が持続的に成長していれば、一部の企業では創業者精神を持った二代目などへの世襲が行われているものの、多くは創業者(一族)から専門経営者への移行が進んでいる。この意味で今後の日本企業の命運は、大勢を占める専門経営者の力量次第ということになる。

日本の専門経営者に対する危惧の背景には、トヨタなど一部の勝ち組を除いて、日本企業がグローバル競争で勝ち残れるかどうかという課題がある。携帯電話をみてみよう。日本のメーカー各社は国内の豊饒な市場での戦いに終始して、世界市場ではノキア(2006年世界販売台数シェア、34.6%)やモトローラ(同21.1%)、サムソン(同11.8%)の上位3社の寡占を許している。日本企業といえばエリクソンと組んだソニーがかろうじてシェア7.4%と4位につけているのみである。パソコン業界も同様で、デル、ヒューレット・パッカード、レノボの上位3社で世界シェアの約4割を占め、日本のメーカーはダイナブック・ブランドの東芝がシェア3.8%で5位に位置している。

製造業ばかりではなく、たとえば宅配業界においても、フェデックスはeコマースとの統合によりグローバルなネットワークを構築し、世界市場で日本企業の追随を許さない。また、検索エンジンをベースにネットの世界で躍進するグーグルは一人勝ちの様相を呈している。

こうした日本企業の世界市場でのプレゼンスの低さの主因は、成長分野に重点的に経営資源を配分するという「戦略的」な視点が欠如している点にあると思う。日本企業の専門経営者の多くは、組織の階層を徐々に登った「管理者」である。日常の競合との戦い方、戦術には詳しくても、本来のトップの役割である未来に対するグランド・デザインを描けるかというとなかなか難しい。それは縦割りの事業部の管理者を超えた、創業者的な起業家の発想が必要だからだ(注1)。

では、創業者と専門経営者との差はどこにあるのか。筆者は創業経営者は次の点で優れていると考えている。
  1. 大きなビジョンをもつ
  2. 哲学・価値観が明確
  3. 戦略観をもつ
  4. リスクをとる決断ができる
  5. 近視眼的でなく長期的視点をもつ
日本経済の潜在成長力が鈍化し、かつグローバルな経営環境が大きく変容しようとしている。今後の日本企業の発展は、世界市場を志向する企業も、超ドメスティックな企業も、上述した創業者的資質を持つ専門経営者の質と量に左右されるだろう。

経営トップの最大の使命の一つは、次代を担う後継者を発掘、育成することである。これまでの「双六の上がり」的な後継者選抜のあり方や後継者育成の仕組みを見直して、未来のプロの経営者を育成してほしい(注2)。


注1:
企業の発展にとって、トップの役割が大きい点、創業者的なプロの経営者が必要な点については下記を参照。

三品和広『戦略不全の因果』(東洋経済新報社, 2007年12月).

注2:
早期選別、子会社経営、MBAあるいはエグゼクティブ・プログラム派遣など多様な仕組みを取り入れ、多面的な選抜を行うことが望ましい。



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