今月の提言


11月の提言『トップの戦略レビューのすすめ』



かつて著名な米国の戦略論の大家は「日本企業には戦略がない」と喝破した。だが、今や多くの企業には「それらしいものはある」と筆者は思う。経営トップや幹部と「戦略」の話をすると、決まっていくつかのキーワードが出てくるのがその証拠だ。たとえば、「仮説」「マネジメント・サイクル(PDCA)」などである。このような言葉を聞くと、戦略経営の本質が理解されつつあることが分かるとともに、今、日本企業にとって何が必要なのかがみえてくる。

「8月の提言」で述べたように、戦略は簡単にいうと「競争に勝つためのプラン」である。そして、競争に勝つには他社との違いを明確にすること、それには自社「らしさ」とは何かを再考するよう提言した。実は、戦略づくりの流れ、戦略のつくり方は、巷にあふれる戦略本をみてもわかるとおり、大同小異である。したがって、「らしさ」をベースにした他者との差異が明確でないと、金太郎飴のような戦略になるのは目にみえている。

多くの企業は早くて70年代から、遅くても80年代には「戦略」づくりをはじめている。だが、当時の戦略なるものが、真に「勝つためのプラン」であったかどうかは疑わしい。多くの企業は「業界横並び」の発想から抜けられず、他社との違いを出すことの重要性をどこまで認識していたかは疑問だからだ。競争がなくならない限り、「違い」は重要なのである。

ところで、競争の時代ではなく「脱競争」だという議論がある。しかし、注意しなければいけないのは、こうした議論は競争を前提にしている点である。たとえば、脱競争という場合、ほとんど差別化による競争回避を意味することが多い。消費の現場や企業の現場の日々の行動をみればよくわかる。スーパーやコンビニでモノを買うにも消費者は自分の好みに従い、競合製品の価格や機能などを比較検討して購入する。また企業は発注しようとするモノやサービスに関して、何社かを選んでその中から選択する。消費や企業の現場において、競争の時代が終焉することはないだろう。違いが求められるゆえんである。

競合との違いが明確で「勝つためのプラン」ができたとしよう。かつては、こうした戦略や中計が床の間に飾ってあったケースもあった。まだ戦略が「仮説」だということの理解が乏しかった頃のことである。今や戦略は推進していく過程で柔軟に軌道修正するのが当たり前になっている。戦略をレビューしてPDCAのマネジメント・サイクルを回すのは経営トップの重要な役割なのである。

こうしたトップの戦略レビューの巧拙が企業の業績格差を生む主因となる。この手の話をする際、筆者は東レの前田勝之助氏を例にとることが多い。周知のとおり、同氏は1987年に就任後10年間社長を務め、繊維業界各社が不振の中で東レを高収益企業に変身させた。そして、業績が悪化し始めたと見るや、後任の平井氏を実質的に更迭し、現社長の榊原氏を社長兼COOにして自らはCEOとなった。前田氏の現役復帰には賛否両論があったが、2年で再び業績を回復軌道に乗せて名誉会長に退いたのである。

前田氏のマネジメントのポイントは、戦略レビューの徹底である。週1回開催される常務会で重要事項の審議が行われるが、担当役員は事前に周到な準備をして前田氏の厳しいチェックを受けることになる。全社の戦略課題の進捗がチェックされ、問題がある場合は対策が問われることになる。こうしたトップと担当役員の戦略的な議論と緊張感を抜きにして、東レの好業績は語れない。

戦略が失敗するのは、戦略が「仮説」に過ぎないこと、それは実際の戦略推進の過程で軌道修正されるべきものであること、この点を十分に理解していないケースが大半である。読者の会社では戦略レビューはどのように行われているか。トップによる戦略レビューがうまく機能していれば、戦略は成功していることだろう。もしそうでなければ、戦略レビューのあり方を見直すべきである。



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