昨年の10月ホテルオークラにて第8回世界経営者会議が開催された。その中でシーメンス社のCEOクラウス・クラインフェルト氏の言葉が印象的だった。つまり、「世界のM&A(企業の合併・買収)の半分は失敗している」が、同社にとっては「成長するにはM&Aを無視できない」し、「過去10年間の社内統計によるとM&Aの成功確率は高まっている」というものだ。失敗のリスクはあるが、それでもやめられないのである。 M&Aの成功確率は最大でも50%、せいぜい30%程度であるといわれている。クラインフェルト氏の評価は少し甘いのだが、それでも一か八かの勝負には違いはない。内外のM&Aの有名な失敗事例として、米国AT&TのCATV会社の買収、松下電器のMCA買収、日立製作所のIMBハードディスク事業の買収などがある。そうそうたる企業がかくも「簡単に」失敗するのである。では、なぜM&Aは失敗するのか。筆者はその原因は次の3点に要約されると考える。
次に、戦略的視点が欠如しているケースも多い。もちろん多くのM&Aは戦略的に十分に考えられたものであろう。だが、はじめに案件ありきで、単純な買収による売上増にとらわれ、戦略的意図が曖昧なケースも見受けられる。当該M&Aによりシナジー効果が発揮できるのか、ノウハウ、スキル、ブランドなどの無形資産や設備等の有形資産を将来にわたって有効に活用できるのか、結果として企業価値を高めることができるのか、こうした問いにポジティブな答えがえられなければM&Aの成功はおぼつかない。 最後に、M&Aを成功させるポイントは、買収した企業の有能な人材の流出を防止することだという。M&Aによって優秀な人材が軒並み退職すれば、失敗は目に見えている。企業によって価値観、企業文化、行動規範などが異なるのは当然だ。しかし、M&Aの経験を積んだ企業の多くは、統合後の人や組織のマネジメントを実践によって学んでいる。クラインフェルト氏が「M&Aの成功確率は高まっている」というのもこのためだ。要は、一日も早くビジョン、夢を共有できる組織に変身することができれば失敗のリスクは低くなるだろう。 大企業から中小企業までM&Aが定着している。かつてのようなM&Aに対するネガティブなイメージはなくなりつつある。M&Aは事業ポートフォリオを組み換え、新たな成長を模索する上で有効な手段である。それでも上述したように、半分は失敗する。ここは失敗の原因を今一度確認し、失敗のリスクを最小限にしてほしい(注2)。 注1: 企業価値を測るには、簡単にEV/EBITDA倍率(イーブイ/イービットディーエー倍率)、つまり簡易買収倍率を用いることも多い。EBITDAは税引前、利子控除前、償却前利益をいい、グロバール企業の収益力を比較する指標である。この倍率が10とすれば、EBITDAの10倍が企業価値であり、買収価格がこれを下回れば買いである。 注2: M&A関連のデータは株式会社レコフが発行する専門誌『MARR(マール)』を参照。 |
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