今月の提言


3月の提言:『成熟市場における成長戦略を考える』



先月の提言『水面下で進む多角化路線を考える』に対して、何人かの方々から成熟市場での成長戦略の推進はそれほど容易ではないとの指摘があった。もっともなご指摘で筆者も同感である。そこで今月は成熟市場に直面する業界各社の成長戦略について述べてみたい。

超ドメスティックな内需主体の業界は、少子化による市場縮小を含む日本経済の成熟化の波をもろに受けている。こうした業界もかつては右肩上がりの市場の中で「成長」を謳歌した時代があった。しかしながら、環境変化の中で従来のマネジメントが通用しなくなっている点は否めない。たとえば、物販、飲食の世界では、ノルマ必達型のかつてのマネジメント・スタイルを取る企業は軒並み苦戦している。市場が成長過程にあり、競争がさほど激しくない環境下では、「やる気」と「動機付け」だけで、「戦略不在」でも多少の無理はきいた。しかし、成熟市場では様相は異なる。いま求められているのは、未来に向けた企業としての大きな舵取り、戦略的意思決定なのである。

結論を言えば、筆者は成熟市場下での成長戦略の戦略オプション、つまり意思決定の選択肢は次の5つに大別できると考える。ただし、最後の「M&Aの活用」は1〜4を実現するための手段でもあり、複数の選択肢の組み合わせもありうる。
  1. 新分野への参入
  2. 市場の創造
  3. 国内エリア展開
  4. 海外市場での拡販
  5. M&Aの活用
まず、新分野参入、新事業開発は成長戦略の基本である。たとえば、印刷業界は市場の縮小が続いているが、業界最大手の大日本印刷は世界有数の液晶・半導体関連のパネル生産メーカーでもある。そのほか2番手の凸版印刷をはじめエレクトロ関連精密部品等へ多角化している企業が多い。異色なのは宝印刷で、現在同社は公開企業のディスクロージャー事業大手として公開準備から開示継続までカバーしている。

また、石油元売り業界は90年代半ばより市場が縮小傾向にある。そこで、各社は新エネルギー事業に活路を見出そうとしたり、出光興産のように電子材料(次世代薄型ディスプレイに使われる有機EL向け材料)に進出するなど、多角化の動きが活発だ。

市場創造については、マーケティング発想が大事である。縮小する子供服市場の中でこどもファッションマーケットを創造したナルミヤ・インターナショナル、百貨店業界において富裕層向け通販市場の開拓と深耕を目指す三越、高島屋などの動きが注目される。

生産財における市場創造、用途開発の例としては、容器メーカー最大手の東洋製罐と日本電気が共同開発したRFID(Radio Frequency Identification:無線通信の識別技術)タグ、つまり無線ICタグがホットだ。3月6日に両社は「ペットボトル容器用のRFIDタグ内蔵キャップを世界で初めて共同で開発した」と発表した。日用品や飲料・食品などの身近な商品に無線ICタグが装着されることで、物流のみならず、今後の販促、マーケティングは様変わりすることが予想される。国内市場が飽和状態にある容器メーカーにとって、市場創造は急務である。

国内エリア展開、海外市場での拡販については説明するまでもないだろう。狭域的エリア展開から広域展開へ、内需型からグローバル市場型へと戦略を転換して成長を模索するケースは数多い。前者の例は、コンビニ業界を想起すればよい。後者は上述した東洋製罐の海外展開が好例だ。

最後に、M&Aは成長戦略にとって不可欠な手段である。上記の4つの戦略オプションを実行するうえでもM&Aは有効である。東洋製罐の海外展開も豊富なキャッシュフローをベースに海外メーカーのM&Aを積極化している。さらに、最良の企業防衛策は企業価値の向上であることを考えれば、余剰資金を寝かせておく手はない。明日の成長を可能にするためにそれをM&A資金として活用すべきである。

筆者は過去に何回か本提言やその他で「ポートフォリオ経営」の重要性を論じたことがある。今、各社は「選択と集中」を超えて新たなマネジメントを模索している。筆者は前述した成長戦略の選択肢を考慮して、21世紀のポートフォリオ経営を実践してほしいと願うものである。

そのためには「不易流行」の考え方を老舗企業から学ぶべきである。すなわち、会社のコアとなる哲学、価値観は不変としながらも、時代に応じて変えるべきもの、たとえば事業領域、経営システムは果敢に変革することが肝要だ。新たな時代のポートフォリオ経営を実践する前に、是非「変化」を是とする社風を築いてほしい。



(先月の提言はこちらへ!これまでの提言はこちらをご覧ください)



トップ・ページへ




ご質問、お問い合わせは下記までお願いします。

© 1997-2007info@asktaka.com