今月の提言


1月の提言:『2007年は"ASIA"に注目!』



昨年11月には景気拡大が58ヶ月続き「いざなぎ景気」を超えた。2006年は戦後最長の好景気を記録した年であったが、一般には「実感のない景気」である。ところが、年末になって一部に先行きに不安がみえてきたという声を聞くようになった。筆者は、2007年はこうした環境変化を視野に入れながら、次なる成長機会を模索する年になることを願うものである。

この意味でアジア諸国の成長ポテンシャルにちなんで、今年のビジネス・キーワードを

"ASIA"

とした。これは下記の4つの頭文字をとったものである。

Asian Countries(アジア諸国)
Strategy for Growth(成長戦略)
ICT and Digital Wave(ICTとデジタルな波)
Advanced CSR Management(先進CSR経営)

BRICsの成長性とポテンシャルの高さが注目されて久しい。無論この中にはアジアの中国やインドが含まれているが、むしろその他の東アジア諸国にも注目したい。例えば、ベトナム、シンガポール、マレーシア、タイなど成長軌道に乗る国々である。すでに製造業においては、生産拠点としてこうした諸国に進出している企業も多い。東アジアにおける中国市場の構成比は5割を超え、市場として中国は圧倒的なプレゼンスがある。しかしながら、今後は他の東アジア諸国を中長期的な成長市場として位置づけ、グローバル戦略を再構築すべきである(注)。

上述した通り好景気が続いているが、企業戦略をみると中長期的な視点から多くの企業が成長戦略を考えているかというと疑問がある。「失われた10年」の後遺症か、それとも長いトンネルを抜けた虚脱感のせいか、経営トップの戦略観が欠如しているケースもある。

スタンフォード大学経営大学院のロバート・A・バーゲルマン教授によれば、戦略とは狭義には「目標を達成し競争に勝つために、どのように経営資源を使い独自能力を活かすかを計画すること」。広義には「自社のドメインを規定し組織の存続に不可欠な目的を掲げ、そのための目標を設定すること」である。つまり、グローバル及びドメスティックな競争環境の中でいかに競争戦略を構築するか、さらに今後の成長の鍵を握る中長期的な事業領域の構築が、戦略のポイントなのである。今年は今後の成長戦略の確立を目指し、目の前の競争戦略とともに事業領域の再設定を行ってほしい。

2011年にテレビのアナログ放送が廃止されデジタル放送に移行する。テレビのデジタル化は、単に「多チャンネル化」や「画質・音質の高精細化・高品質化」にとどまらない。この意味するところは、テレビとパソコンが合体し家庭内に情報家電が行きわたるということである。例えば、これまで店頭で買っていたか、電話で注文していた商品をテレビ画面上でクリック一つで買い物できるようになる。また、注文服のように、従来はお店で仕立て職人とのやり取りが必要な商品さえも、テレビとカメラを使って自宅で注文・調整できるようになるであろう。このようにデジタル化により消費者の生活は変化し、業種を問わずビジネスチャンスも生まれる。

ここで大事な視点は、デジタル化やICT(情報通信技術)では対応できないビジネスにもチャンスが生まれるという点である。例えば、いくらクリックだけで買い物が出来ても、商品の配達あるいはピックアップには人手や場のサービスが必要なのである。このようにICTによるビジネスが盛んになるに従い、それを補完的するビジネスも成長ポテンシャンルが生じるのである。こうした大きなデジタルな波に乗れるかどうかが、21世紀の次の10年を生き残る鍵を握る。

最後に、日本企業において、CSR(企業の社会的責任)経営が定着しているかに見える。し かしながら、単に従来の横並び発想でCSR経営を推進している企業も少なくない。CSR経営とは、社会の構成員たるステークホルダーに目配りしつつ、自らコーポレート・ガバナンスや内部統制を強化し、「経営の質」を高めるマネジメントである。その定着化には経営トップが陣頭指揮をとって、長い努力が必要である。そして、企業の特徴やその企業らしさがCSR経営の具体的行動に現れてこそ、他社との違いがブランド力の差を生むことになる。今年は「自社にとってのCSRとは何か」、「自社らしいCSRとは何か」を再確認し、より進化したCSR経営を推進してほしい。

2006年は"ASIA"をキーワードとして、次代に向けた成長戦略の実践とマネジメントの質の向上を期待したい。


注:
東アジアは中国、NIES、ASEAN5の10カ国・地域。なお、NIESは韓国、台湾、香港、シンガポール、 ASEAN5はインドネシア、タイ、マレーシア、シンガポール、ベトナムの諸国である。2005年のGDP(米ドル建て)構成比は、中国が50.9%、NIESが32.5%、ASEAN5が16.6%で、中国のウエートが高い(アジア経済研究所『2007年東アジア経済見通し』(06年12月)による。


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