今月の提言


11月の提言:『村上ファンドの正論』



昨年の12月にある産学のフォーラムで「村上ファンド」の村上氏の講演を久しぶりに聞いた。その後まもなく同氏が塀の中に入ろうとはその当時は予想もしなかったが、相変わらず「正論」を述べていた。無論「罪」の部分は決して許されるべきではない。しかし、この正論は村上氏の「功」として正しく評価すべきであろう。すなわち経営者は「企業価値向上」のために精一杯努力すべきだということである。

経営トップは自ら企業価値向上のために最善の手を打っているかどうかを自問自答すべきである。あるいは社内外に最適な手立てかどうかを客観的に判断できる目を持つことが肝要である。株主を含めたステークホルダーの誰が見ても、現在のマネジメントチームが企業価値を最大化していると判断すれば、それは最良の企業防衛策でもある。

村上ファンドに狙われた昭栄、松坂屋、阪急・阪神などは、基本的にトップはそれまで企業価値を向上させる努力を怠っていたといえる。村上氏の株主としての「企業価値向上」の要求は、結果として経営陣を奮起させ業績や株価に好影響を与えた。この意味で株主と経営陣との適度な緊張感が好結果を生んだといえる。

では、企業価値を向上させるためにはどうするか。結論からいえば、永続的なイノベーションの実行がその答えである。実は、昨年5月経済同友会は「企業イノベーション〜企業価値向上のための成長戦略」という提言を行った。この提言は、事業構造や収益構造を転換させて、再び成長起動に乗せることに成功した企業を事例研究して、イノベーションを実行し、企業価値を向上させるためのヒントを得ようというものだ(注1)。

事例研究の対象は、ヤマト運輸、日本IBM、JSR、三菱商事、松下電器産業の5社だが、そこから次の5つ成功のポイントと2つの教訓を得た(注2)。

<成功のポイント>
  • 企業を取り巻く社会環境の変化のなかに次なる成長市場の芽を感知。
  • 次なる成長市場をメインターゲットにするのに最適な形に「仕組み」を変革。
  • 新たな「仕組み」が有効に機能するように「企業文化」も一新。
<教訓>
  • 危機的状況に陥る前に「企業イノベーション」に着手。
  • 「企業イノベーション」の継続的な遂行。
そして、過去のイノベーションによって再成長を遂げた企業も、図表1で示すとおり次なる成熟(低成長)期を迎えることになる。そのため企業が成長力を維持するには、継続的なイノベーションが不可欠だと提言している。

図表1:主な企業のイノベーションの段階
図表1:主な企業のイノベーションの段階
出所:注1、p.13。


上述した経済同友会の提言はきわめて妥当というか、大上段に構えた正論である。しかしながら、企業イノベーションを具体的に遂行するにはどうすべきか、この点の示唆がなければ、「ごもっともなお話」で終わる。危機的な状況にある企業も、そうでない企業も、多くの企業が変化できないでいるのはそれなりの理由がある。筆者が思うにその理由は次の3つに大別される。

  1. 経営トップが変化を好まない。
  2. 幹部以下社員が変化を好まない。
  3. 変化の必要性を感じていない。
最初は、事業部長、部長クラスあるいは課長クラスは危機感が強いのだが、トップが今ひとつ変化を嫌うケースである。この場合、変化を好むトップをすえれば問題は解決するが、よほどの慧眼がなければ現トップは後継にそのような人を選ばない。こうした企業でも委員会等設置会社にして指名委員会をよく機能させれば、変化の必要性に応じて変革に適したトップを選ぶ可能性はある。要は、この手の会社はコーポレート・ガバナンスの仕組みの確立が不可欠である。

トップは変化、変革を望むが、なかなか部下が動かないケースもある。この場合はトップのマネジメントに問題があることが多い。単なる「変化」「変革」の掛け声だけではなく、具体的なイノベーションのテーマを与えるか、さもなくば何を変革するかを経営企画部門に検討させる。その上で、トップ自らが先頭に立って変革を推進するのである。

最後のケースは、本業が成長市場にあるか業績が好調な企業に多いが、もしそうでなければことは深刻である。老舗企業をみれば明らかなように、「不易流行」こそ永続する企業の本質だ。つまり、不変の部分と環境変化にあわせて自在に変化する可変性が必要なのである。この意味では、業績がよくない企業が「変化」する意思を持たないとすれば、生き残りを放棄したといっても過言ではない。ここはトップが危機意識をもって、「変化」の旗を振るべきである。

村上ファンドの正論を真摯に受け止め、皆さんの会社が「イノベーション」という変化を通じて、絶えず企業価値を高めるマネジメントを行っているかを自問してほしい。


注1:
社団法人経済同友会『企業イノベーション〜企業価値向上のための成長戦略』(2005年5月)

注2:
前掲書による。



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