今月の提言


9月の提言:『あなたの会社の戦略オプションは?』



7月の提言『本業回帰を超えて』に対して、予想通りさまざまなコメントをいただいた。その中で、何人かの方から「超本業回帰か、集中と海外市場強化か」という選択肢はいいが事例はないか、というお尋ねがあった。そこで、今回は個別の事例というよりも業種別に多角化戦略や集中戦略の現状をレビューして、各企業の戦略オプションのフレームを提示したい。

超本業回帰に関しては、90年代に一世を風靡した「選択と集中」を抜きには語れない。何度か本提言でも指摘している通り、本業あるいは主要事業が成熟市場や衰退市場となった企業が本業回帰を目指したり集中戦略をとれば、結果は明らかで縮小均衡とならざるをえないのである。筆者は「選択と集中」に話題が集中しているさなかに、こうした主張をして事業ポートフォリオの見直しを提案してきたが、当時の経営トップは概ね目先の「絞込み」に注力してきた感がある。

では、日本企業は90年代に「選択と集中」の掛け声の下に本当に本業回帰が進んだのであろうか。その答えは、イエスでもあり、ノーでもある。読者の方々のご賢察どおり、業種によって異なるからである。具体的に、製造業のケースをみてみると、90年代半ばを境にして戦略の転換が行われていることがわかる。図表1から明らかなように、多角化指数(多角化度)をみると94年まで多角化が進行してきたが、95年以降製造業全体での指数はほぼ横ばいである。

図表1:1990年代の製造業における多角化戦略の実態(連結ベース)
図表1:1990年代の製造業における
多角化戦略の実態(連結ベース)
出所:注1の図表1による。

ところが、業種別にみると、鉄鋼業、薬品、総合電機などは「集中」が進み、食品、繊維、パルプ・紙などは「多角化戦略」を継続していることが分かる。なお、化学、機械、電機、輸送用機器などは多角化指数はほぼ一定で戦略的に安定している(図表2-4を参照。 PDFファイルはこちらへ)。

図表2:多角化から集中へ戦略転換した産業

図表2:多角化から集中へ戦略転換した産業

図表3:多角化戦略を維持している産業

図表3:多角化戦略を維持している産業

図表4:戦略が安定的な産業

図表4:戦略が安定的な産業

出所:図表2〜4は注1の付表による。

このようにみると、集中化が進んだ業種はグローバルな競争の激化などを背景に事業を絞り込み、中核事業に経営資源を集中させることによって更に競争力を強化させる戦略をとったとみることができる。他方、多角化戦略を継続している業種は、中核事業の市場が成熟化しているケースが多い。事業ポートフォリオを最適化するという観点から、多角化を推進しているのである。

上述した現状を踏まえて、企業がとりうる現実的な戦略オプションは何か。筆者は縦軸(表側)に自社の中核事業(主力事業、本業)の市場のライフサイクルをとり、横軸(表頭)にグローバルな競争優位の強さの度合いをとって、次のマトリックスで考えることをお薦めしたい。

      
<戦略オプションのパターン>

グローバル競争力→
↓中核事業のライフサイクル
競争優位性が弱い
競争優位性が強い
〜成長期

集中&ドメスティック展開


集中&グローバル展開

成熟期・衰退期

多角化&ドメスティック展開


多角化&グローバル展開

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先ず、上記のマトリックスで自社のポジションを確認しよう。まだ中核事業の成長性が期待できるのであれば、集中戦略を推進する効果は高い。より強い事業(あるいは製品)に絞り込んで資源を集中投入することで、将来の市場の増分のシェアを高めることができるからである。さらにグローバルな競争優位を発揮できるのであれば、その強みを生かして海外への展開という選択肢もある。

一方、中核事業が成熟化あるいは衰退化している市場である場合は、基本的には多角化の道を探ることになる。この場合は関連分野への多角化の成功確率が高いことが多くの実証研究によって知られている。また、世界に通用する競争優位をもっていれば、日本市場が成熟していてもまだ成長余力のある海外市場へ展開することも可能である(注2)。

以上、単純化して簡単なマトリックスで戦略オプションを示してみた。自社のポジションを認識している企業は多い。しかしながら、メリハリの利いた戦略を実践しているかというと必ずしもそうでない。一日でも早く最適な戦略オプションを選択して具体的なアクションを実行することをお薦めしたい。


注1:
財務省・財務総合政策研究所『日本企業の多様化と企業統治』(2003年2月)による。

注2:
多角化の研究及び多国籍企業あるいはトランスナショナル企業に関する書籍、論文は数多いのでここでは列挙いたしません。興味がある方はメールをいただければお薦めの文献をお知らせします。



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